運動部と文化部にある「名誉格差」

神奈川県の公立中学校23校の中学2年生に対する2009年度の調査(鈴木2012)によると、「クラスの人気者だ」という自己評価項目に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と答えた生徒の所属率が高い部活動は、男子の場合、剣道・柔道・弓道などの「武道系」(23.4%)、サッカー・野球・バスケットボールなどの「球技系」(22.0%)、陸上・水泳などの「個人競技系」(20.8%)などであり、美術・演劇・書道などの「芸術系」(8.3%)、科学・家庭・生活などの「その他文化系」(2.9%)の部活動に所属する生徒は自己評価の低い者が多い。

女子の場合も「個人競技系」(16.8%)、テニス・卓球・バドミントンなどの「ラケット競技系」(15.7%)などに自己評価の高い者が多く、「その他文化系」(8.1%)、「芸術系」(3.7%)は低くなっている(鈴木2012:167)。

さらに「クラスメイトに容姿をほめられる」という項目についても見てみると、男子は「ラケット競技系」(25.1%)、吹奏楽・合唱・音楽など「音楽系」(25.0%)の順に高く、「その他文化系」(6.0%)などが低い。

女子の場合は「部活動に所属していない」(34.9%)、「個人競技系」(33.3%)などが高く、「武道系」(14.3%)が低くなっている。

「現在、恋人がいる」についても、男子は「音楽系」(17.1%)、「球技系」(13.1%)などが高い一方で「芸術系」は0%である。

女子も「球技系」21.6%、「武道系」19.0%の順に高く、「芸術系」は6.8%と低くなっている(鈴木2012:167)。

いずれも興味深い結果だが、学校教育にとって正統的な文化資本である科学や芸術といった分野の部活動が、生徒の間で高い承認を与えられるどころか不名誉な位置づけに甘んじている点をあらためて指摘しておきたい。

学校にもよるだろうが、生徒間の序列は学校教育に対する反抗を基礎にしている部分があり、“部活で全国大会出場は英雄、全国模試の県1位は変人”といわれるように(前川2016)、時には学業成績の高さが生徒の間で「スティグマ」(負の烙印らくいん)として機能し、いじめの標的になる場合さえあるのだ(『現場で使える教育社会学』第14章)。

「人気者になりたければ、人気の高い部活に入ればよい」と言うかもしれないが、最低限の技能や生徒間の評判がない状態で人気部活に入部すると、かえって嘲笑や排除の対象になる危険もある。

学校の部活動はそうした独特な秩序のなかにあり、誰もが心置きなく楽しめるものにはなっていないのである。

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死亡者数が最も多い部活は「柔道」

部活動をめぐる第3の格差は「安全格差」である。

全国の中学・高校における怪我の過半数は運動部活動中に起こっており、届出が出されているだけでその数は年間30万件に上っている(朝日新聞2019)。

生徒が死亡したり通常の学校生活を送れないほどの後遺症を負う部活動事故は2005年~2013年の間に全国の小中高で少なくとも189件発生しているが、内訳を見ると「柔道」(14.3%)、「野球」(11.1%)、「ラグビー」(9.5%)の順となっている(大阪教育大学2015:9)。

主要部活動における死亡者数は、中学校では「柔道」(生徒10万人あたり2.4人)が1位で、2位の「バスケットボール」(同0.4人)の6.2倍となっており、高校では「ラグビー」(同3.8人)、「柔道」(同3.4人)、「剣道」(同1.5人)の順になっている(内田2013:28~29)。

柔道をめぐっては、近年、とりわけ重大事故の多い「大外刈り」を小中学生では一律禁止とするように求める訴訟が起こされ、判決では「初心者への受け身の指導を徹底したり、受け身の習熟度に応じて大外刈りを禁止したり制限したりすること」の必要性が示されている(毎日新聞2019)。