トーナメント方式が体罰を増やしている

学校における安全という意味では「体罰」問題も避けて通れない。

2013年に行われた体罰実態調査によると、運動部活動経験者の20.5%に体罰被害経験があり、体罰を受けた時期は「中学」が約6割で最も多くなっていた。

中村高康、松岡亮二編著『現場で使える教育社会学』(ミネルヴァ書房)
中村高康、松岡亮二編著『現場で使える教育社会学』(ミネルヴァ書房)

性別で分けると体罰被害経験率は男性22.0%、女性13.1%であるが、「週に2~3回以上」の高頻度被害の割合で見ると男性31.5%に対して女性50.7%となっていた(全国大学体育連合2014)。

2006年度に3大学の学生を対象として実施された体罰経験調査によれば、「体を殴られたり蹴られたりした」「ボールなどの物を投げられた」「罰として、正座・ランニングなどをさせられた」という3種の体罰被害率が高いのは「バレーボール」(中学71.0%、高校70.5%)を筆頭に「野球」(中学48.8%、高校67.4%)「ハンドボール」(中学45.5%、高校61.5%)、「新体操/体操」(中学40.0%、高校63.6%)などである。

ただ、同じ種目であっても部内の雰囲気によって体罰経験率は大幅に異なっており、指導者や先輩後輩関係の厳しい部活、「勝ちたい・入賞したい」という思いの強い部活、レギュラー争いの激しい部活で体罰被害が多くなっていた(冨江2008)。

こうした「権威主義」「勝利至上主義」「競争主義」の雰囲気が人間の攻撃性を増進させるという知見には事欠かない(Donnelly and Straus eds. 2008;山本2016、2018など)。

体罰などの行き過ぎた指導は、「厳しい部活に所属していることが勲章になり、体罰被害が武勇伝になり、体罰を告発しようとすると裏切り者扱いされる」という生徒の間の名誉の在り方と絡み合う形で温存されている部分がある。

また、多くの運動系部活動の大会で全国1位を目指してひたすら勝ち上がるノックアウト・トーナメント方式が採用されていることも、体罰などの行き過ぎた指導の温床になっている。

一度のミスが勝敗にとって命取りになりかねず、指導が激化しやすくなるのである。

現在、学校部活動の縮小や地域移行が取り沙汰されている。確かに今の学校部活動には問題が多いが、冒頭で述べた通り、多くの子どもにとって部活が喜びと活力の源泉であることも事実であり、丁寧な議論が求められる。

現場で使える教育社会学』第13章「特別活動と部活動に忍びよる格差」では、学校部活動が社会格差を是正している側面や「部活格差」を乗り越えるための実践例についても紹介しており、今後の部活論議の参考にしていただければ幸いである。

※参考文献
佐々木正昭編著、2014、『入門特別活動 理論と実践で学ぶ学級・ホームルーム担任の仕事』(学事出版)
ベネッセ教育総合研究所、2005、「平成16・17年度文部科学省委嘱調査『義務教育に関する意識調査』報告書
長谷川祐介、2009、「家庭背景別にみた学校行事の教育的意義 体育大会を事例に」『比治山大学現代文化学部紀要』16
鈴木翔、2018、「高校生の友人関係の状況が文化祭および体育祭への消極的な参加態度に与える影響 都立高校生を対象とした質問紙調査データの分析から」『日本高校教育学会年報』25
近藤博之、2011、「社会空間の構造と相同性仮説 日本のデータによるブルデュー理論の検証」『理論と方法』26(1)
東京書籍、2018、「スポーツ庁委託事業平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書
スポーツ庁、2019、「令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査中学生徒質問紙集計結果
内田良編著、2021、『部活動の社会学 学校の文化・教師の働き方』(岩波書店)
長沼豊、2017、『部活動の不思議を語り合おう』(ひつじ書房)
高嶋航、2019、「女子野球の歴史を再考する 極東・YMCA・ジェンダー」『京都大學文學部研究紀要』58
鈴木翔、2012、『教室内スクールカースト』(光文社新書)
前川ヤスタカ、2016、『勉強ができる子卑屈化社会』(宝島社)
朝日新聞、2019年5月5日、「部活、給食でなぜ…絶えない学校の事故300万件を分析
大阪教育大学、2015、「学校事故対応に関する調査研究 調査報告書」文部科学省委託事業報告書
内田良、2013、『柔道事故』(河出書房新社)
毎日新聞、2019年8月22日、「部活の中1死亡 大外刈り学校事故、警鐘 全柔連への損賠請求、福岡地裁棄却『気引き締め指導を』父控訴せず
全国大学体育連合、2014、「運動部活動等における体罰・暴力に関する調査報告書
冨江英俊、2008、「中学校・高等学校の運動部活動における体罰」『埼玉学園大学紀要 人間学部篇』8
Donnelly, Michael, and Murray Straus, eds. 2008, Corporal punishment of children in theoretical perspective. Yale University Press.
山本宏樹、2016、「政治科学の進化論的転回 保革闘争の遺伝子文化共進化について」『〈悪〉という希望 「生そのもの」のための政治社会学』(教育評論社)
山本宏樹、2018、「指導死・体罰と学校危機管理」『子どものからだと心白書2018』(子どものからだと心・連絡会議)

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