格差が縮小し、先進国で最も平等な国に

立憲民主党のアベノミクスの総括(2021年9月21日)によると、「アベノミクスは、格差と貧困の改善につながらなかった」という。これが事実かどうかを21年9月23日現在得られる最新のデータで調べておこう。

総務省統計局「2019年全国家計構造調査」(2021年8月31日)によると、日本の等価可処分所得のジニ係数は、09年の0.283から、19年には0.274まで低下した。すなわち、アベノミクスで、所得再分配後の不平等度は低下し、格差は縮小したのである。

等価可処分所得とは、世帯の年間可処分所得を当該世帯の世帯人員数の平方根で割った値で、当該世帯の1人当たり可処分所得の指標である(世帯の可処分所得を世帯人員数で割って求めないのは、各世帯には世帯人員が共通で使用するものが存在するためである)。

同統計はG7(日、米、英、独、仏、加、伊)の等価可処分所得のジニ係数(18年か19年)も示しているが(スカンジナビア諸国のジニ係数は示されていない)、日本(19年)が最も低く、アベノミクスの効果で、日本はG7の中では最も平等な国になったのである。等価可処分所得で測った相対的貧困率と子供貧困率も、それぞれ、09年の10.1から19年の9.5と、09年の9.9から19年の8.3へと低下している。

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金融ショック時も名目賃金は大きく変動しなかった

上で、アベノミクス実施前のデフレ期の正社員の名目賃金の下方硬直性が、アベノミクスで雇用市場が売り手市場になっても、正社員の名目賃金があまり上がらないという上方硬直性の原因になっていることに言及した。

そこで、ここでは、この問題に関する理論的・実証的研究を紹介しておこう。

山本[2007]は「慶應義塾家計パネル調査」(2004~07年調査)のパネル・データを用いて、デフレが緩和しつつあった2004~06年の日本経済において、労働者個々人の賃金がどの程度伸縮的であったかを検証し、国際比較を試みている。

この山本[2007]の分析と黒田・山本[2006]やKuroda and Yamamoto[2014]の分析を合わせて考慮すると、「日本ではバブル崩壊、その後の長期不況、リーマン・ショックなどの大規模なショックに見舞われてきたが、それに対する賃金調整は賞与や残業調整によって行われ、必ずしも所定内給与は伸縮的に変動してこなかった可能性がある」(山本・黒田[2017])という結論が得られる。