中小企業はアベノミクスの恩恵を受けていないとよくいわれるが、実際は、18年度の資本金1千万円以下の企業の売上高経常利益率は、全産業では、12年度の1.7%から2.6%へと1.5倍も上昇しており、バブル期のピークである89年度の2.1%をも上回っているのである。
中小の製造業は2.8%で、対12年比で1.8倍(バブルのピークの89年の3.1%をやや下回るが、16年度は3.5%を記録し、バブル期のピークを上回った)の上昇である。中小非製造業も対12年比で1.6倍へと大きく上昇しており、バブル期のピークの1.8%をも大きく上回っている。こうした中小企業の利益の大幅改善は、「トリクルダウン(大企業の利益の増加はやがて、中小企業の利益になる)」である。
アベノミクスによる就職市場の大幅改善も「トリクルダウン」である。なぜならば、学生の学力や仕事をする能力が就職氷河期の学生よりも改善したおかげで、就職市場が改善したわけではなく、改善したのは、単に景気がよくなったからである。
恩恵を受けられていない企業には理由がある
こういう事実があるのに、日本ではいつまで経っても、「中小企業はアベノミクスの恩恵を受けていない」とか「トリクルダウンは起きていない」という合唱が鳴り止まない。
もちろん、アベノミクスの恩恵を少しも受けていない企業も少なからず存在するであろう。著者は日銀副総裁時代に、ある地方の女性専門の服飾店の店員に、「アベノミクスの恩恵を感じてますか?」と訊いたことがある。
その店員は、「少しも」と首を横に振った。著者はその店を一回りしてから、「それは当然だ」と感じた。衣服の飾り方は乱雑で、買いたくなるような魅力的な衣料品がまったくないのである。「少しは、ユニクロの飾り付けのマネでもしたら」とアドバイスしたいくらいであった。
こういう店は、どんなに景気がよくなっても、景気の恩恵は受けられない。誰しもが何らの努力もせずに、上を向いてぽかんと口を開けていても、「利益がしたたり落ちてくる(トリクルダウン)」わけではないのである。それこそ、こういう店は、景気がよくなると、人手不足になり、人手不足倒産に追い込まれる可能性が高いのである。