病床確保のためのお金はこの1年でかなりつぎ込まれた一方で、もう一つの最前線であったはずの訪問看護への手当は低いまま感染者は増加し、そもそも担い手の少ない訪問看護が「最後の砦」になった。

これでは現場は報われない。大多数の軽症患者、中等症患者の一部を地域で治療・ケアし、よりハイリスクな中等症患者、そして重症者の治療に大病院の医師が集中できるようにする方法はある。現場の負担軽減にもつながるはずだが、こうした動きが特に首都圏では鈍かった。

いつも漫然と「波」を乗り切って、喉元を過ぎて熱さを忘れたためだ。「次に備えよう」は、掛け声だけで終わった。

現実的かつ報われる仕組みはまだない

佐々木は、神戸市で在宅での新型コロナ患者のケアにあたってきた訪問看護師に聞いた話を教えてくれた。患者が辛いのは肉体だけではない。電話をしてもつながらない、どこにも相談できず、救急車を呼んでもやって来ないという状況で自分は見捨てられていると思ってしまうこと。「不安」もまた辛いのだ、と。

石戸諭『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』(毎日新聞出版)

血中酸素飽和度が90パーセントを切るというハイリスクな状況でも入院先が見つからず、救急車を呼んでも搬送先が見つからないという現実はすでにある。明日にはひっそり重症化する患者が出る。

「基本的にはウイルス感染症だから、医療システムに組み込んで患者に応じた治療やケアに取り組めばいいのです。東京でも、感染してしまい一人で苦しんでいる患者がいます。いきなり救急車を呼んでも、来られるかどうかも運次第、感染しても適切な治療を受けられるかも運次第という状況を医療とは呼べません。僕たちももっとノウハウを地域の医療機関や自治体と共有して、できることを広げていかないといけない」

メディアに大きな注目をされることもなく、水面下で最前線に立っている医療従事者に口先だけの感謝ではなく、現実的かつ報われる仕組みはまだない。

2021年8月、新規陽性者数がピークを迎えた時、佐々木は「在宅コロナ患者への往診への協力を求めるメッセージ」を公開した。そこにはこんな内容が記されていた。

■業務内容
新型コロナ患者の在宅療養支援
・電話診療・オンライン診療
・往診(ドライバー・看護師同行)
・コロナ療養施設(看護師常駐・中等症ベッド5~10床)の回診
・上記に基づく在宅酸素療法の導入・指導、薬剤処方(院内・院外)、点滴などの必要な医療処置、訪問看護指示等
保健所及びフォローアップセンターからの対応依頼を、医療法人社団悠翔会の「コロナ対応本部」にて一元的に受付、初診カルテを作成した状態で引き継ぎます。
安全な診療ができるよう必要十分な資材を確保しています。
お問合せ、ご応募はこちらからお願いします。

ほどなくして、呼応する医師があらわれた。希望はこのファクトに宿る。

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