現代は人間の自立の時代

人間主義、個人主義、努力によって進歩できるという考え、そして科学的な世界観が広まったことで、宇宙における人間の地位や人生の意味についての考え方が大きく変わったことは間違いない。ただもちろん、それがすべてというわけでもないだろう。他にも同時にさまざまなことが起きていた。

都市化、市民階級の誕生なども大きい。工業の発展に伴い、農村から多くの人が都市に移り住んだことで、人々の土地や共同体との結びつきが切れたということもある。アメリカやフランスが18世紀の後半に始めた民主的な政治制度の影響も見過ごせない。統治者の権力の正当性はかつては神によって与えられるものだったが、それが人民、市民によって与えられるものに変わった。

さまざまな革命の結果、人々の考え方は過去とは大きく変わり、人生の価値や目的、意味は、与えられるものではなく、自分で見つけるのが当然とされるようになった。個人は集団から切り離され、自分の内なる信念、願望に従って生きている。そして、自ら選び取った価値観に沿って努力すれば、必ず進歩できるはずだと信じているし、進歩することが自分の責任だと考えている。伝統的な共同体を失い、神や魔法も失った今の私たちには、自分以外に頼るものはない。現代は人間の自立の時代であるということだ。

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欧米で無宗教者が増えている

ヨーロッパ諸国に比べれば信仰の喪失が遅かったアメリカだが、結局はヨーロッパと同様の変化が起き、変化は時代を経るにつれて加速した。現在のアメリカで正式な信仰をなにも持たない人は約5600万人だが、このままの速度で国の世俗化が進めば、2050年には大半のアメリカ人がどの宗教ともまったく無関係という状態になるだろう。アメリカ人は総じて信心深く、その信仰心は比較的、安定していると長らく信じられていただけに、この数字には驚かされる。

アメリカでは1990年以降、信仰する宗教を持たない人が急速に増えた。無宗教者は、どの宗教の信者に比べても圧倒的な速度で増加している。変化は特に若い世代で顕著だ。1981年以降に生まれた人たちはすでに36パーセントが無宗教化している。

ヨーロッパのいくつかの国では、神を信じないこと——またそれを公言すること——がすでにごく当たり前になっている。チェコはおそらく世界でも最も無神論者の多い国だろう。実に国民の40パーセントが完全に神の存在を否定している。無神論者が2番目に多いのはエストニアだ。フランス、ドイツ、スウェーデンでも、神の存在を確信する人よりも不在を確信する人のほうが多くなっている。

アメリカのようにまだ大半の国民が神を信じている国も多いが、そういう国でも信仰態度を変えることが以前よりは普通になり、受け入れられやすくなっている。

これは中世の人には、おそらく私たちの祖父母の世代の人にさえ、理解し難いことだっただろう。最近のピュー研究所の調査によれば、子供の頃と宗教への関わり方が変わった人がアメリカでは実に国民の42パーセントに達しているという。社会科学者のロバート・パットナムとデヴィッド・キャンベルは、現代アメリカ人の信仰についての研究論文にこう書いている。「信仰する宗教を自身の固定的な属性ではなく、単なる“好み”として扱うことが今ではごく普通のことになっている」