女性だから社長になれたわけではない

2015年からマーケティング部に移り、各モデルのグローバルなPR方針の策定や、ワークスとしてのレース活動のプランニング、出場ライダーの決定・契約の管理などに従事。2018年には同部部長となった。

そして川崎重工から『カワサキモータース』が独立するにあたり、同社の伊藤浩社長より直々に、KMJの経営を託されたというわけだ。

写真提供=カワサキモータース
パーツメーカー主催のライディングレッスン会に参加し、現在大ヒット中の『Ninja ZX-25R』でコーナーを攻める桐野氏。プライベートでの愛車はフランス駐在時代のブランクを経て、帰国してから『Ninja 250』、『Ninja 650』と乗り継いでいる

10月6日に行われた新生カワサキモータースの事業説明会では、桐野氏もKMJのトップとして登壇し、挨拶した。ただその発表会の際に配布された資料の最後に、カワサキモータースグループにおける『多様性の実現』の例として彼女のKMJ社長就任が紹介されていたのは、得策とは言えないのではないか。

桐野氏は近頃何かとかまびすしい、SDGsへの取り組みをアピールするため社長に推されたわけではあるまい。経歴を振り返ってもわかる通り、その理由はただシンプルに、結果を残してきた優秀なビジネスパーソンだからこそだろう。

ファンを増やすために

往年の名車Z1にオマージュを捧げたZ900RSや、4気筒250ccエンジンを復活させたNinja ZX-25Rのヒットなど、近年のカワサキは絶好調。またコロナ禍における密を避けたレジャーとして、足元での国内バイク販売数はわずかながら増加傾向にある。

しかしこの先、わが国のマーケットが往時の勢いを取り戻すことは難しい。

そんな流れにあって、カワサキといえども利益を出すためにはいつまでも硬派を標榜するだけでなく、従来は縁がなかった多様なユーザーを開拓していかなければ生き残れない。

「カワサキというメーカーやその製品が『漢カワサキ』と呼ばれ、特別なイメージができあがっているのは非常にありがたいことです。ただ残念ながら日本において、バイクは必要不可欠な乗り物ではありません。お客様の平均年齢も今の成熟市場のままではどんどん上がっていってしまいますので、女性も含めた新規層にカワサキのファンになっていただくのは、とても大事なことなんです」

「一度乗っていただければ多くの方にバイクの魅力を知っていただけると思うんですが、実際試すところへ行くまでにまだ距離がある。ですから従来の『漢カワサキ』のイメージは維持しつつ、もう少しその幅を広げ、さまざまな立場、感性、年齢の方それぞれに合った、バイクのある心が豊かな生活を提案していきたいと考えています。また、購入のハードルを下げるために従来より価格を下げたモデルの投入や、多様なニーズに合わせたラインナップの充実はもちろんのこと、これまでバイクに関わったことのないお客様でも気軽に入れる店舗環境作りを引き続き行っていきます」

その一方で、他メーカーに比べブランド愛が強いとされる既存のカワサキファンも、コアユーザーとして大切にしなければならない。

「カワサキのモデル開発には過去も今も一本の筋が通っていますし、将来にも受け継がれていきます。ですから、現在カワサキのファンでいてくださる方々の期待を裏切るようなことはないとお約束できます」