電動化しても絶対に譲れないもの
では今後も受け継がれる一本の筋とは、つまり時代が変われど貫かれるカワサキらしさとは、いったい何なのか。
「私個人としては、『操る悦び』だと思っています。重たくて、夏には暑く、冬には寒いバイクに、なぜライダーたちは進んで乗るのか? それはやっぱり、楽しいからですよ。特にカワサキのバイクはどんなモデルでも、ハンドルを握るライダーが自分で操縦する喜びを感じられる、つまりスポーツライディングを最優先に考えているんです」
前述のカワサキモータース事業説明会では、同社の伊藤社長が伝統の継承に注力すると語った。おそらくこれは、現在の柱のひとつであるクラシック路線や、カワサキらしい乗り味の強化だと受け取れる。
だが伊藤社長は同じ説明会で、2025年までに10機種以上のハイブリッドEVやバッテリーEVを導入し、2035年までに先進国向け主要機種の電動化を完了すると宣言しているのだ。さらには、バイク用水素エンジンの開発を進めているとも。
カワサキ車をカワサキ車たらしめてきた大きな要素が、ガソリンエンジンだ。脱炭素の時代になっても、果たしてカワサキならではの個性は維持できるのか? 桐野氏はこう考える。
「機械のおもしろさをあきらめたくない」
「過去を振り返れば、キャブレターがインジェクションになったり、ABSやトラクションコントロールなどが新機構として搭載される際、『バイクらしさがなくなってしまう』と批判されたものです。しかしいざそれらが一般化すると、バイクをスポイルするどころか、ちゃんとメーカーごとの味を持った組み込まれ方をしていきました。ハイブリッドやEVの時代になっても、カワサキとしてのDNAやフィロソフィーを活かした造り込み方はできるはずですし、実現させなければいけないと思っています」
だがガソリンエンジンを、消えゆく過去の動力と捉えているわけでは、断じてない。
「カワサキ製品の長年に渡る魅力のひとつは、間違いなく内燃機関。電気で回るモーターとは異なる、燃料が爆発した力で動く極めて精巧な“機械”のおもしろさというのは、あきらめたくないんです」
カワサキ車販売会社の社長は、やはりこうでなければ。そう、桐野氏は歴代のKMJ社長と同様、血管の中にガソリンが流れている『バイクガイ』なのだ。
もっともこの先、彼女の血管にはガソリンだけでなく、時に電気や水素も流れることがあるかもしれないけれど。