父親の異変「何か、おかしい……」嫌な予感は的中する

年が改まって2015年1月。狛井さんは、79歳になった父親の手間を少しでも減らすため、「帰ってきたら自分でやるから、もう僕の夕食はテーブルに出しておかなくていいよ」と伝える。ところが、毎晩帰宅すると、テーブルには夕食が並べられていた。

その後しばらくして、仕事から帰宅した後、狛井さんが母親のトイレの介助をすると、尿パッドが重く、下着までぬれていることが続く。不審に思った狛井さんは、母親に「こんなにベトベトになってるのに、なんでお父さんに新しいパッド持って来てって言わへんの?」と尋ねた。

すると、「お父さんに何回か頼んだんやけど……」と口ごもる。

狛井さんが父親に問いただすと、父親は急に怒り出し、「ちゃんとやっとる! 俺は悪くない!」と繰り返した。

おかしい。何か、おかしい……。その後、嫌な予感は的中することになる。

同年3月末、狛井さんは、単身赴任先から帰ってきた弟とその家族を誘い、両親と食事をした。その数日後、弟から電話があった。「親父の様子が明らかにおかしい」。

「私はうすうす異変を感じつつも、まさか父が……と思い、目を逸らしていたのかもしれません。数カ月ぶりに父と会った弟は、その異変をすぐに感じていました」

その頃から父親は、テレビも見ずに自分の部屋でじっと座ったまま考えごとをするように。母親も、「お父さん、いつも『しんどいしんどい』言うて寝てばかりおる」と心配した。

「実は父は以前から糖尿病がひどく、昔なじみの医師に診てもらっていました。しかし父に確認すると、もう何カ月も行っておらず、薬も飲んでいないことが分かりました。私は愕然として、すぐに母のかかりつけの内科医に電話し、『父を行かせるので、血液検査をしてほしい』と伝えました」

母親が不調の中、父がアルツハイマー型認知症と前立腺がんに

数日後、狛井さんが検査結果を聞きに行くと医師は、「病院を紹介しますので、すぐに行ってください。即入院になるかもしれません」と言った。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/101cats)

「父は、骨などに異常がある時に高値となる『ALP』という数値がケタ違いに高くなっていました。私は、母には何か異常がある度に病院に連れて行き、検査をしてもらっていましたが、父には気配りができていませんでした……」

狛井さんは、その足で紹介された病院に父親を連れて行くと、即入院となる。

さまざまな検査の結果、アルツハイマー型認知症と前立腺がんの告知を受けた。医師が、「こんな数値は初めて見る」というほど、父親の「PSA」という前立腺がんの腫瘍マーカーが高い数値で、かなり進行した前立腺がんであることが分かっただけでなく、骨転移も見られるため、もう手術ができる状況ではなかった。

「父の2つの病名の話は母にもしましたが、特に取り乱すことはありませんでした。母はもう、いろんなことを悟っていたような気がします」