トヨタ、B Medical Systemsともに、ワクチン輸送においてはそれぞれの分野で世界ナンバーワンシェアを誇る。豊田通商がそのハブになれる立場だったため、オファーを受けたわけだ。中川さんがこの話をトヨタに持ちかけると、先方は手放しで喜んだ。

「トヨタとしてもアフリカでの新しい市場開拓が最重要課題でした。その上、ワクチン輸送は人道的な取り組みでもあるため、二つ返事で応じてくれました。むしろ、よくぞこういう市場を見つけてきてくれた、それこそが商社だよと、労いの言葉をもらいましたね」

もはや前に進まない理由などどこにもなかった。こうして2018年、ワクチン保冷輸送車のプロジェクトがスタートした。

写真提供=豊田通商
エチオピアで同僚たちと食事をする中川さん(左から2番目)

試行錯誤で成し遂げた悲願の認証取得

プロジェクトは大きく3段階に分けられる。1つ目は、ワクチン保冷輸送車のコンセプトやビジョンを練り上げ、関係者を集めて合意を取ること。2つ目は、サンプル車両を製造し、走行実験をする。3つ目はデータをまとめて、WHOと交渉し、PQSを取り付けることだ。

最も苦労するのは認証取得だ。冷蔵庫だけならまだいいが、両方を組み合わせたもの、つまり、クルマを医療機器として認定してもらわなければならない。日本では救急車そのものは医療機器ではないことからも、ハードルの高さがうかがいしれるだろう。

B Medical Systemsが試作品を作り、ランドクルーザーに搭載して、電気系統の整備など、専門家がさまざまなアイデアを出し合う。WHOのスペックに合わせて開発、テストするも認証を得られず。修正し、またテストで落とされてと、何度もトライした。

写真提供=豊田通商
アフリカの道を走るワクチン冷蔵輸送車

プロジェクト開始から3年。数百人に上るプロジェクトメンバーの努力の甲斐あって、21年3月、ワクチン保冷輸送車は悲願のPQS取得を成し遂げた。

社会実装への道を歩み始めた

晴れて認証を獲得したが、ここで終わりではない。各国に売り込み、使ってもらわなければならないからだ。そのためのテスト用車両出荷が今年11月から始まった。

途上国のワクチン普及を支援する国際組織「Gaviワクチンアライアンス」の要請を受け、セネガル、ブルキナファソ、ニジェール、ケニア、南スーダンにワクチン保冷輸送車を寄付。この5カ国は悪条件がそろった国で、道は舗装されておらず、難民キャンプには電気がない。そこで問題なくワクチンを輸送するのは、アフリカの中でも非常にハードなのは間違いない。