複数の野球部員への性的暴行で逮捕されたコーチ

このように、日本の運動部活動における顧問(監督)と生徒(選手)のかかわりは、圧倒的な主従関係であることが多い。

特にスポーツ強豪校での暴力事件は絶えず報道されている。9月13日には高校球児への性的虐待で、大阪市の私立高校野球部コーチだった被告(31)が別の部員に性的暴行をしたとして、強制性交等致傷の疑いで再逮捕された。

同被告は8月にも同じ性的暴行の疑いで逮捕・起訴されており、被害にあった生徒は約10年間で50人以上いるとされる。被告は高校時代に甲子園出場経験があった。性的暴行に耐える日々がいかに過酷だったかは、被害を受けた生徒の多くがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいることから伝わってくる。

ブラック顧問の言いなりになってしまう「4つの理由」

コロナ禍で禁じられた闇練習に従い、性虐待を我慢する。運動部活生は、ブラックな顧問になぜこんなにも従順なのか。理由は4つあると筆者は考える。

1つ目は、顧問が生徒の「進学先の決定権」をほぼ握っている現実だ。

誰をどこの高校に入れるか、どの大学を受けさせるか。生徒の希望を聞きつつ詰めていくとしても、スポーツ推薦や特待生など、中高の部活顧問がステークホルダーであるケースは依然多い。生徒やその保護者にとって、顧問は間違いなく「利害関係者」となる。

2つ目は、大学の広告塔として、高校の運動部活生の役割がより重くなった時代背景がある。

全国大会出場や都道府県大会上位進出など、優秀な成績を収めた生徒を受け入れる高校や大学は、長く続く少子化による経営難が叫ばれている。生徒を奪い合うサバイバルを生き抜くための戦略として、運動部の活躍は大きなイメージアップをもたらす。過去には箱根駅伝を制した大学の受験者が増えるなど、目に見える効果が期待できる。

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現実に、運動部活生の受け皿として、スポーツ関連の学部・学科を増設する大学は増えている。学校検索サイト「ナレッジステーション」の学問分野系統別大学検索で「スポーツ・健康科学」と検索すると、2021年11月現在で関連学科の設置件数は156に上る。

国立大学が12、公立6、私立大学が138と多い。2016年度は全部で139件だったから、この5年で17件増えたことになる。増加分はほぼ私立大学のものだ。

生徒の価値が上がれば、強豪校を率いる顧問はより大きなパワーを持つことになる。首都圏の大学でスポーツ関連学部の教員を務める男性は、選手のスカウトに行くと保護者から「(顧問の)先生に任せているので」とよく言われるそうだ。