女子高校生の恋愛マンガと何が共通するのか
ここで『天使なんかじゃない』のストーリーについて、簡単に触れておきましょう。『天使なんかじゃない』の舞台は、創設されたばかりの高校・私立聖学園です。絵を描くのが大好きな天真爛漫な主人公・冴島翠は、2学期になって早々に行われた生徒会選挙で選出され、副会長に就任しました。彼女は入学式で出会った「ちょっと不良っぽい」雰囲気の男子生徒・須藤晃のことがずっと気になっていたのですが、なんと、その須藤くんが生徒会長に就任します。
基本的には「翠の晃への恋心」を中心に、のちに翠の大親友となるプライドの高いお嬢様・麻宮裕子や、長髪でクールなイケメンの瀧川秀一、翠と同じ中学出身のラグビー部員・河野文太ら生徒会メンバーの友情や恋愛、学園生活を描いた青春漫画です。矢沢あい先生の出世作とも言える作品で、芸能界でも多くの人たちが「この漫画のファンです」と公言しています。
当時、相当な数の少女たちが、この『天使なんかじゃない』を読んでいました。先述したように、「『鬼滅の刃』に夢中になっているのは、かつて『天使なんかじゃない』にハマっていた、現在30~40代の女性が多いのでは」と僕は推察しています。彼女たちは、無意識のうちに自分のなかにある『天使なんかじゃない』のイメージを、『鬼滅の刃』という作品に重ね合わせて読んでいるというわけです。
『鬼滅の刃』と『天使なんかじゃない』の共通する部分とは何か。ここで注目するのは、『天使なんかじゃない』の主要登場人物の一人で主人公・翠の親友である「マミリン」こと麻宮裕子です。
主人公に「近すぎず、遠すぎず」の孤高キャラ
このマミリンはちょっとクールな性格で、自分の感情をあまり表に出す女の子ではありません。けれども、マミリンは翠のことを心の底から信頼し、彼女が落ち込んだときには、早く立ち直ることができるよう優しく寄り添います。
『鬼滅の刃』でこのポジションに近いのが、炭治郎の能力を見いだして剣士へと導く「冨岡義勇」です。この冨岡義勇も、クールで口数が少ないキャラクターとして描かれています。
両作品とも主人公のすぐ近くに、「友人などいないし、いらない」と考えているような孤高のキャラクターが配置されている。そうした主人公と重要な登場人物との「近すぎず、遠すぎず」という関係は、少女漫画でよく描かれる構図です。
また、主人公の翠が好きになる生徒会長の晃には、広子という幼い妹がいます。晃が中学生の頃に両親が離婚したことから、晃と広子はずっと離れて暮らしていました。
晃は7歳下の広子のことを大切に思い、妹に優しい晃のことを翠はますます好きになります。晃と妹の広子とのやりとりを見て、翠が「キュンキュン」しちゃうわけです。
この「晃と広子」という兄妹関係は、どことなく「炭治郎と禰豆子」に似ています。吾峠先生が「炭治郎と禰豆子」の関係性に抱いているイメージは、おそらくこの「晃と広子」に近いのではないでしょうか。