愛する夫は、DVで平気で浮気もした
高校3年になり、就職活動を始めた鳥越さんは、就職先を自動車販売会社に決めた。とにかく早く家を出たくて、高校1年のときから付き合っていた彼と結婚するつもりだったが、この頃から彼がよそよそしくなり、不眠症に。心療内科に通い始め、睡眠薬を処方されたが眠れず、38キロまで体重が激減した。
彼の浮気相手が鳥越さんの幼なじみと分かると、鳥越さんは抗議のため、幼なじみの家を訪ねる。すると、彼と幼なじみが服を着ながら現れ、絶句。何もかもどうでもよくなった鳥越さんは、家で睡眠薬2カ月分を一気に飲み、朦朧としていたところを姉に見つかり救急搬送される。近くの総合病院で胃洗浄を受け、一命を取り留めた。
それから1カ月間、高校を休学し、3月に無事卒業。4月からは社会人になった。
やがて鳥越さんは、大卒で同期入社の男性から猛アタックを受け、付き合うことに。自動車販売会社の営業に配属された鳥越さんは、メキメキと頭角を現し始めた。入社3年目には、営業所での成績がトップ級になるまでに成長。大卒同期の男性との交際も順調で、やっと鳥越さんにも幸せが訪れたかのように思えた。
ところが、ある出張帰りの夜……。
上司が営業車で家まで送ってくれると言うので、鳥越さんは素直に従った。すると上司は、人通りの少ないところに車を停めると、鳥越さんに襲いかかった。鳥越さんは激しく抵抗し、やっとの思いでドアを開けて脱出。
さらに驚いたのは翌日の会社だ。その上司は、なぜか自ら鳥越さんと不倫関係にあるということを人に伝え、それはまたたく間に社内に拡散した。会社は、上司と鳥越さんに事情を聞くが、あろうことか上司は、「鳥越さんから迫られて行為があった」と言った。鳥越さんは「そんな事実はない」と言ったが、会社の判断は、ケンカ両成敗。鳥越さんには新人教育係への異動を命じ、上司は左遷となった。
あとで鳥越さんがその上司に食ってかかると、「入社2年目で実績を上げ、収益は女性トップに登り詰めたお前を、潰してやりたかった」と顔を歪めた。出張前に部長から鳥越さんと比較されたことを屈辱に感じた上司は、暴力でねじ伏せる凶行に出たわけだ。
当時付き合っていた大卒同期の男性とは、結納を交わしたばかりだった。このことは当然、彼の耳にも入る。彼は激昂して豹変し、暴力を振るい、鳥越さんは肋骨を折る大けがを負った。だが彼自身、鳥越さんを疑う心と信じる心とで葛藤していたのか、鳥越さんを襲った上司に社内でつかみかかる騒ぎを起こし、減給処分を受けた。
それから彼と結婚するまでの3年間、彼は鳥越さんを毎日家まで送るようになった。
「彼には、守ろうとする気持ちがあった一方で、私を監視する気持ちもあったと思います。彼は事件以降、何かあるとすぐに手を上げるようになり、結婚するまでにもう一度肋骨を折るけがを負わせられたほか、彼に突き飛ばされて家具に踵をぶつけ、足の骨にヒビが入ったこともありました……」
それでも、1994年5月、鳥越さんは24歳で結婚。結婚後は身体への暴力はなくなったが、代わりに食費・生活用品費・医療費以外はお金を渡さない経済的なDVが始まった。
「私は被害者であり、上司から逃げ切ったのに、上司が『私から迫り関係を持った』と陳述したため、夫は私の言うことを心の底からは信じてくれませんでした」
翌年、長女を出産したが、妊娠がわかった時の第一声も「本当に俺の子か?」だった。
「上司は、私も夫も壊してしまいました。それからはずっと夫の監視下です。子どもたちが学校に行っている間にママ友とお茶をしても、証拠を残すか、アリバイを作らないと出られなくなりました。私を知っている人は、『夫婦ラブラブだね』と勘違いするけれど、生存確認と称した監視は息苦しさしかありませんでした」