「犯人にはいくつかの顕著な傾向がある」

新聞各紙の社説では、「電車内また凶行 防犯対策超えた議論を」との見出しを付けた11月2日付の東京新聞の社説が目を引いた。

「東京都の京王線で男が刃物を振り回し、乗客が重軽傷を負った。鉄道各社は防犯対策を進めているが、完璧な対策はない。犯人を無差別攻撃に走らせる要因は何かという議論が欠かせない」と書き出し、容疑者の心のうちを探る議論の必要性を訴えている。

東京社説は指摘する。

「法務省法務総合研究所の報告書『無差別殺傷事犯に関する研究』によると、犯人にはいくつかの顕著な傾向がある」
「収入面で不安定な状況にあり、交友や交際関係が乏しい。恵まれない生活の中で、社会に絶望や憎しみを抱いている人物が多い」

京王線や小田急線、秋葉原の事件などの犯人に当てはまる傾向である。

続けて東京社説は主張する。

「こうした人びとの存在は憎んでみても消えない。社会的な病理であり、どうしたら減らせるのかという議論を重ねることが大切だ」

「社会への敵意どう立ち向かう」と読売社説

11月3日付の読売新聞の社説は「逃げ場のない電車内で乗客が襲われる事件が再び起こった。乗客の命をどうしたら守れるのか。鉄道各社は、非常時の対応方法を改めて確認する必要がある」と書き出し、最後はこう締め括っている。

「防犯カメラや人工知能(AI)を活用し、不審な行動をいち早く検知するシステムの開発も進んでいる。こうした犯罪を完全に防ぐのは難しいが、鉄道各社は相次ぐ事件の教訓を対策にどう生かすか、知恵を絞らねばならない」

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読売社説は防犯対策に絞って論じている。見出しも「乗客の避難手順を再点検せよ」となっている。防犯対策を超えた議論には関心がないのだろうか。

そんな思いから調べてみると、読売社説は8月14日付の「無差別襲撃事件 社会への敵意どう立ち向かう」で、小田急線の事件を受けてこう書いている。

「不特定多数や見ず知らずの人にやいばを向ける事件が後を絶たない。世間への一方的な敵意にどう立ち向かうべきか、事件の背景も踏まえて社会全体で考える必要がある」

さらに読売社説は「無差別殺傷事件は各地で起きている。法務省が過去の事件を分析した結果、犯行動機は『自分の境遇への不満』が4割を占めた」と指摘し、「うまくいかない人生を他人のせいにして、怒りの矛先を社会に向けることなど許されない」と訴える。