3地域は優先交渉権を持つ事業者を選定済み
IR誘致に名乗りを上げた3地域は今年9月末までに優先交渉権を持つ民間事業者を選定済みだ。2025年に開催する万博会場となる夢洲に誘致する大阪府・市は米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同グループを、和歌山市の人口島マリーナシティに誘致する和歌山県はカナダ企業の日本法人クレアベストニームベンチャーズを、ハウステンボス隣接地への誘致を決めている長崎県はオーストリア国営企業の日本法人カジノ・オーストリア・インターナショナル(CAIJ)をそれぞれ決めた。
MGMとオリックスが大阪に提案した事業計画案は、初期投資が1兆800億円で最大規模。2028年の開業を想定しており、2500人収容の宿泊施設や6000人超が利用できる国際会議場など巨大な施設を造る。雇用創出数は約1万5000人、府と市は合計年1100億円の増収が見込めるという。
クレアが和歌山県に提案した案は、初期投資約4700億円で県が当初想定していた2800億円を大幅に上回る。開業4年で経済波及効果は約2600億円を見込み、雇用創出効果は大阪並みの約1万4000人だ。
長崎県に提案されたCAIJの事業計画も大風呂敷だ。総事業費3500億円や九州域内への経済波及効果を年3200億円としたのは、県が経済波及効果3200億~4200億円、雇用創出効果2万8000~3万6000人としていた当初見込みに合わせた格好だ。最大1万2000人を収容できるMICE(会議・展示場等)施設も建設する。さらに雇用創出効果は大阪や和歌山を大きく引き離し3万人だ。
「5000人規模の会議なら、リモートでいい」
事業計画の策定や事業者選定時期はすでに新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大していた。しかし国交省は「中核施設の開発要件」に沿って巨大施設の建設を既定路線のまま事業計画に盛り込むことを求めている。
開発要件の見直しを行わなかった理由について、観光庁の特定複合観光施設区域整備推進本部は「公的財源を投入しない原則に基づいて自治体が現行制度で施設を造りたい希望もあり、国としても他国に比べて見劣りしていたMICEの国際競争力を高めたい考えもある」(前川翔企画官)と説明する。
地域経済活性化の起爆剤にしたい自治体にとっては、カジノに加えて巨大施設や大規模イベントによる内外からの集客能力こそが頼りだからだ。しかし、コロナ禍のなか、学術やビジネス分野では会議やイベントの大部分がオンラインで行われるようになり、MICE施設の利用ニーズは世界的に縮小した感が否めない。
IR業界に詳しい国際カジノ研究所の木曽崇所長は「国交省は新型コロナ感染前に作った開発要件をコロナ後も全く変えていないが、いまや5000人も集めて会議を行うニーズはない。リモート会議をすればよい」とMICE市場の変貌を指摘する。大型IRの必要性や開発要件を見直すには政府方針の転換が不可欠でIR整備法の改正も必要となるため、観光庁がおよび腰になるのも仕方がないかもしれない。