固くなった唇以外はまるでお昼寝をしているよう
ここで声をかけるのが正しいのかなんてわかりません。
ただ、私たちの仕事が小さなお子さんやご両親に、何かできることがあると信じるしかないのです。
「お母さん、今日はたくさんハナちゃんを抱っこしてあげましょう。ハナちゃんの一番好きなお洋服と、お写真を用意してもらえますか?」
お母さんが虚ろな顔でうなずき、ハナちゃんから離れました。
小さな体には、死因を調べるためについた解剖の傷があります。手当てができるのは今しかありません。
みなさんにいったんお部屋を出てもらい、傷の確認です。
小さな体で頑張ったね。
泣きたくなるような気持ちで手当てをします。
出血などがないよう、傷が目立たないように肌色のテープを貼り、首にはレースのついた布を巻きました。
体の手当てを急いでしていると、お母さんが白いワンピースとウサギが刺繡された黄色のカーディガンを持ってきてくれました。
ひと時も離れたくない様子のお母さんに、一緒にお着替えをしていただくことにしました。着ている下着の上からお洋服を着せると、乾燥して固くなった唇以外は、まるでお昼寝をしているみたいです。
せめてお顔は穏やかに
子供の肌は大人と比べると水分量がとても多いため、大人より乾燥が早く進んでいきます。指先も皺ができ、唇の色や形も変わってしまいます。
小さな体で頑張って来た子供たち、せめてお顔は穏やかにしてあげたいと思うのはご遺族だけではなく、納棺師も一緒です。
ワックスと少量の口紅を混ぜて、唇の固くなっている部分に乗せます。
お顔と体には、普段塗っていたクリームを塗ることにしました。これはお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんにも参加してもらい、指先にまでみなさんにたくさん、塗っていただきました。
後は、私がすることはあまりありません。
残りの時間は抱っこして過ごしてもらうことにしました。
抱っこをするとお母さんは、いつもハナちゃんを見ていた時の表情を思わせる、優しい顔に変わっています。
お母さんとお父さんが並んで、何度も頰に触れて名前を呼びます。先程までの「叫び声」ではありません。