1年間で累計30万本の売り上げ

彼女が“インク沼”と呼ぶのは、ペンや万年筆のインクに(沼のように)どっぷりハマってしまう人たちのこと。「マツコの知らない世界」(TBS系)など人気テレビ番組で特集が何度か組まれたのを機に盛り上がったワードです。21年10月現在、インスタグラムで「#インク沼」と検索すると、10万件近い投稿がみてとれます。

写真提供=呉竹

それだけ、インクのアナログな濃淡や微妙な色使い、あるいはインクに独特の名称のカラーも多いこと〔例:「ビルマの琥珀こはく」や「ローズクオーツ(宝石)」「冬将軍」ほか〕などが、「エモさ」を感じさせるからでしょう。

「からっぽペン」は、こうしたインクファンをはじめとした、いわゆる「文具女子(文具好きな女子)」を中心に話題を呼び、2020年3月以降の約1年間で、累計約30万本を売り上げました。

また、20年12月には「第4回文具女子アワード」を、翌21年2月には「文房具屋さん大賞2021」で大賞を受賞するなど、文具界全体を盛り上げる「期待の星」でもあります。

発売時期が、新型コロナの感染拡大初期(日本では2020年3月)に当たり、「ステイホーム」で多くの人たちが手作りに目覚めたことも、人気を後押ししました。

また「からっぽペン発売の20年3月に、もともと店舗イベント用だった『ink-café~私のカラーインク作り~(以下、ink-café)』を、『自宅用』に改良して広く発売したことも、功を奏したと思います」と佐藤さん。

2000年代初期から始まっていた

ただ、からっぽペンは決して「降って湧いたアイデア」の産物ではありません。実は2000年代初期、既に呉竹の社内には、ある動きが起こっていました。

2001年9月11日、アメリカで起きた「同時多発テロ事件」。これを機に、アメリカでは大切な家族写真に「手書き」でなんらかのメッセージを添え、それをスクラップブックに貼り込んでいく「スクラップブッキング」がブームを迎えたのです。

「弊社のプロジェクトチームは当時、日本でもやがて同じようなブームが来るのではないかと読んでいました」と佐藤さん。

たとえば、母親が幼い娘とのツーショット写真を貼り、そこに「ママはこのとき、こんなこと考えていたの」と書き込む。そのメッセージを、数年~数十年後に読んだ娘は、写真単体を見たとき以上に、おそらく「ママありがとう!」と深く感動するでしょう。

一方で、数年~数十年もの間残すとなれば、インクも日焼けしたり色褪せたりしないものでなければ意味がない。そこで呉竹は、スクラップブックに細かな字を書き込める細文字タイプのペンとともに、水や油に溶けず保存性にも優れた「顔料インク」の開発に注力し始めます。