なぜか「景気の回復こそが財政を改善させる」という論点をさけている

第二に、記事内の図表では政府の一般会計歳出と税収を比較して、歳出が税収を大幅に上回る状況が2000年以降続いているとしているが、ここにも大きな見落としがある。

一般会計歳出には国債費(償還費・利払い費)が含まれる。コロナ前の2020年度当初予算における歳出101兆円のうち、国債費は24兆円である。満期が来たわけではない国債の償還を急ぐ必然性はない。不要不急の償還を行うために一般会計歳出の規模はその実体よりも過大になっている。

このような問題があるからこそ、通常単年の財政状況を考える際には国債費を除いた歳出と国債発行以外の歳入――いわゆるプライマリバランスをみることになる。このプライマリバランスは2009年度にはマイナス8%にまで落ち込んだが、その後の景気回復によってマイナス2%ほどにまで縮小している。同記事が景気の回復こそが財政を改善させるという論点をあえてさけていることは不思議でならない。

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ごく単純な計算を間違えている

第三に、成長率と金利の関係についてはごく単純に計算を間違えている。

一般的に、「政府債務残高÷GDP(債務残高対GDP比)」が発散する(加速度的に増大する)状況を財政破綻と定義することが多い。分子である政府債務残高は新規借入と利子分増加していく、分母であるGDPの成長率は経済成長率に他ならない。分子の増加よりも分母の増加が大きいならば債務残高対GDP比は低下していく。

矢野氏は経済成長率が金利よりも高くなっても、プライマリバランスが赤字であると「財政は際限なく悪化してしまう」としているが、これは誤りである。

債務残高対GDP比の変化
≒(金利-成長率)×債務残高対GDP比-プライマリバランス対GDP比

となる。債務残高対GDP比が加速度的に増加していく(発散する)か否かは右辺第一項の「金利-成長率」のみに依存する。

プライマリバランス対GDP比が赤字であろうと黒字であろうと、それが一定の範囲に収まっているならば、債務残高対GDP比を加速度的に変化させることはない。ちなみにこの関係は、日本では、ドーマー条件と呼ばれる。

矢野次官の表現を引用すると、債務残高対GDP比と金利・経済成長率の関係は「ケインズ学派かマネタリストかとか、あるいは近代経済学かマルクス経済学かとか、そういった経済理論の立ち位置や考え方の違いによって評価が変わるものではなく、いわば算術計算(加減乗除)の結果が一つでしかないのと同じで、答えは一つであり異論の余地」はない。

もっとも、債務残高対GDP比が財政破綻の指標として適切か否かには十分異論がありえるが。余談であるが、同記事ではこの引用部分以外でも同様の大げさな表現が多く、装飾過多のきらいがある。