不況期に財政政策が求められる理由

一国経済における財・サービスの生産能力に対して総需要が小さいとき、政府支出の拡大に対応する供給の増加が生じる。これが不況期に財政政策が求められる理由だ。

一方で、生産能力に相当する需要があるとき、それ以上の政府支出拡大は民間経済が利用可能な財・サービスを抑圧することになる。じゃがいも100個の生産能力しかない国で政府が食べてしまうじゃがいもが1個増えれば、民間が食べることが出来るじゃがいもが1個減るのと同じ理屈だ。

総需要と生産能力のいずれが大きい状態かを知るためにはインフレ率を見れば良い。金融政策に大きな変化がない状況では、総需要が生産能力を上回るとき、経済はインフレ傾向になる。むろん、需要が供給能力を少し上回り、2–3%程度のインフレが発生している方が民間投資が刺激されて中長期的な経済成長にプラスになる(高圧経済論)。

しかし、4–5%を超えるインフレを高圧経済論によって擁護することは難しいだろう。一定以上のインフレの元では、財政の拡大は民間が利用できる財・サービスの量を減らすことになるため望ましいものとは言えない。

ここに財政拡大の限界がある。財政は無限に拡大できる打ち出の小槌ではない。生産能力、そしてインフレという限界のある政策手段なのだ。

各党が掲げている公約は「バラマキ政策」ばかりではない

「0歳から高校三年生まで一律10万円相当を給付」「中間層を含め一人10万円給付」……確かに多くの政党が直接給付を公約として掲げている。しかし、各党の政策集(政策の細目を具体的に提示する冊子)をみると、各党の政策提案はこのような一律型の給付に限られるものではない。

ところが、矢野氏の影響もあって、「今回衆院選の各党政策はバラマキ色が強い」という印象にも基づく整理が行われると、メディアでの「各党公約比較」といった記事ではこのような「広く浅く」タイプの政策ばかりが大きく取り扱われる。

都市を飛ぶ円
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与野党の政策集を読み込んで投票先を決めるという有権者は少数派だろう(例えば、自民党の総合政策集は138頁もある)。その結果、選挙後に有権者が注目する――早期の実施を期待する政策はメディアでの言及が多かった「広く」「浅く」タイプの政策中心になるだろう。

ここが大きな問題だ。財政は無限に拡大できるものではない。インフレが顕在化しはじめたら徐々に縮小していく必要がある。そして、政策の実行には時間・手間が必要だ。(政策集に示される)あらゆる政策を同時に実行することは出来ない。どうしても実行に順番がついてしまう。