コロナ禍から回復するためにはどんな経済政策が必要か。明治大学政治経済学部の飯田泰之准教授は「コロナ関連の財政支出で財政破綻することはないが、広く浅い給付はほとんどが消費に回らないため経済効果は低い。コロナ後の経済回復に必要なのは、飲食業や宿泊業など深刻な経営危機に陥っている業界への支援策だ」という――。
世界的な流行と経済的影響
写真=iStock.com/Ca-ssis
※写真はイメージです

「バラマキ政策」を批判した現役の財務省事務次官

現役の財務省事務次官である矢野康治氏が『文藝春秋』11月号に寄せたエッセイ(「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』)が大きな話題になっている。

コロナ対策にまつわる財政支出策を「バラマキ」と捉えた上で、その財政支出が財政破綻の可能性を高めているという警鐘であり、メディアや経済界では高く評価する向きもあるようだ。

ただし、その内容をみてみると、現役の官僚が政策に対して意見することにいかに覚悟が必要なことを繰り返し述べることに紙幅の多くが費やされており、財政に関する記述に目新しいものはない。同記事を賞賛している人は本当に本文を読んだのだろうか。筆者は予告編だけで本編のない映画のような記事に感じるのだが。

その一方で、現役次官が財政支出の拡大を批判したことの影響は非常に大きい。折しも現在、衆院選のまっただ中だ。矢野氏の記事に誘導される形で各党の公約のうち、「バラマキ」色のある部分だけが切り取られ、注目されることは今後の政策実施において大きな足かせとなろう。

矢野氏の経済学的誤り

繰り返しになるが、矢野氏の記事のなかで日本の財政について書かれていることは意外と少ない。要約すると以下の3点のみだ。

・日本の債務残高は膨大な額にのぼる
・歳入と歳出の差(ワニの口)が全く埋まっていない
・成長率より金利が低くても、プライマリバランスが赤字なら債務残高の対GDP比は拡大する

第一に、政府債務を考える際には負債だけではなく資産についても同時に比較する必要がある。コロナ前の時点で、債務から(比較的売却が容易な)金融資産のみを差し引いた純債務残高は対GDP比約153%と確かに高い水準にある(OECD World Economic Outlook Database 2018、以下数字は全て概数)が、先進国の政府が自国通貨建てで発行している政府債務を資産売却によって返済することを迫られる状況はあり得ない。制度的な詳細はさておき、原理的には貨幣を発行して返済することが可能だからだ。

なお政府と政府系機関あわせた負債から金融資産・非金融資産を除いた純債務はGDP比で5.8%である(IMF Fiscal Monitor 2018)。財政の限界は債務残高やその対GDP比にあるわけではない。後述するように、財政拡大の限界はインフレにある。