メールやキャッチフレーズなどで大衆と直接的に結合
さらに彼は、国民に直接自分の声を届けるため、メールマガジン「らいおんはーと」を開始し、記者会見も親しみやすいぶら下がり会見にしました。
そのほかにも小泉氏は、飾らない人柄、人懐っこい笑顔、キャッチーなワンフレーズ(「改革なくして成長なし」「聖域なき構造改革」「痛みを伴う改革」など)で人気を博し、政権末期の2006年時点でも支持率は50%前後あり、最後は惜しまれつつ本人の強い希望で辞任しました。
私はかつて、ここまで国民に愛された首相は見たことがありません。しかし彼の政治手法を冷静に見ると、既存のエリート主義への反逆、大衆をとりこにするカリスマ性、歯切れのよいワンフレーズ、劇場型政治、急進的な改革、自民党内勢力の分断、敵の排除、大衆との直接的結合を求めるメールマガジンなど、どれをとってもポピュリズムそのものでした。
トランプ前米大統領の手法
ドナルド・トランプ氏は第45代アメリカ合衆国大統領です。在任期間は2016~2020年の4年間と短いですが、非常にインパクトの強い大統領でした。
彼が味方につけた大衆は「プアホワイト(貧しい白人層)」です。その多くは「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」の貧しい工場労働者で、グローバル化の波の中、近年は生産受注を新興国に奪われ、国内雇用は安い不法移民に奪われていました。しかし、そんな彼らを、従来の政治は助けてくれませんでした。共和党は金持ち優遇、民主党は弱者に優しいはずなのに、人種的マイノリティにばかり目が行き、彼らの窮乏に気づいてくれません。彼らは従来のエリート主義の政治に失望していました。
そこにトランプ氏が出現。ビジネスマン出身の彼は「America First(アメリカ第一主義)」を掲げ、国際協調よりもアメリカの国益を重視し、そのために従来のエリート主義の政治を止め、国民の力で世界に分散したアメリカの富を取り戻すことを呼びかけたのです。そのために彼が訴えた政策は、メキシコとの国境に壁をつくる(不法移民対策)、イスラム教徒の入国禁止(テロ対策)、TPPからの離脱(途上国に利するだけ)、安保同盟国への負担増額要求(アメリカの労力に見合っていない)、などでした。これらはいずれも国内外の分断を進めるもので、従来のエリート主義の政治では考えられないものばかりでした。しかし彼は、そのほとんどをためらうことなく実施あるいは着手したせいで、エリートや知識人からは嫌われましたが、プアホワイトをはじめとする従来の政治に不満を持つ大衆層からは、熱烈に歓迎されました。
さらに彼は、国民と直接つながる手段として、Twitterを利用。しかも通常よく見られるような、息抜きや政策宣伝用ではありません。社会に渦巻く分断の炎に、ガソリンを投下するためです。つまり彼は、社会を分断して至るところに敵味方の構図をつくり、敵への憎悪をTwitterで煽り、それに共鳴した大衆を味方につけることで、自らへの支持を拡大させたのです。善悪はともかく、彼は天才的なポピュリストでした。