――それは何でしょうか。

移民の受け入れです。例えば、ドイツと日本は、合計特殊出生率、年齢の中央値、家族形態など、かなり似通っています。しかし現在、ドイツはフランスよりも多くの移民を受け入れています。ドイツへの移民といえば、トルコ人を思い浮かべますが、いまや彼らは多数派ではありません。東欧諸国、そしてロシアからも大量の移民が押し寄せています。

つまりドイツでは、「移民」とはドイツ人と容姿の異なるトルコ人を指し、自分たちと容姿の似た移民については、深く考えないようにしているのです。私はドイツの移民受け入れを、「忘却型の移民モデル」と呼んでいます(笑)。

一方、20世紀初頭から移民受け入れの歴史を持つフランスには、現在も、さまざまな肌の色の移民がやって来ます。フランス人は、文化の違いには敏感ですが、身体的特徴の差異にはあまり関心がない。その証拠に、フランスでは人種間を超えた婚姻率が高い。これがフランス型の移民モデルです。

――トッドさんのお話からは、移民に偏狭なドイツ人、移民に寛容なフランス人というイメージが浮かんできますが、実際にはフランスでも、都市部郊外での暴動や高い失業率など、移民に関するさまざまな問題が起こっています。そして移民政策は、来年のフランス大統領選の争点になるとも聞いています。

フランス社会でも、移民やその子どもたちが、社会的に大きなハンデキャップを背負っていることは確かです。しかし、フランスが掲げる自由・平等・博愛という価値観と人種差別は、完全に相反します。移民の社会統合がうまくいっていないという指摘も事実ですが、その原因は、フランス社会における経済的な分配の仕組みや雇用政策などの影響のほうが強いと思います。

後世の歴史家は、「あのときトッドが言っていたことは、正しかった」と判断してくれるはずです。フランスにおける移民統合の失敗を唱える論者は、主に社会的なエリート層です。

(大沢尚芳=撮影)