――日本の合計特殊出生率1.39(10年度調査)は、フランスの2.00(08年)と比べれば、かなり低いですね。そもそも人口の少子高齢化は、なぜ「悪」なのでしょうか。
少子高齢化は、日本だけでなく先進国に共通する現象です。現在、各国における高齢化のマイナス要因は、教育の拡充、技術革新によって補われています。ところが、人口の少子高齢化の現象は、まだ始まったばかりです。
教育や技術革新によって、当面の間、人口の少子高齢化を補うことができたとしても、我々はいずれ限界に達するでしょう。
少子高齢化のもう一つの側面として大いに懸念されるのは、代議制民主主義が歪むことです。選挙民の高齢化によって、高齢者に有利な政策が優先されてしまう。すなわち、若者の声が政治に反映されず、世代間の不平等がさらに拡大してしまう恐れがあります。
――ポール・ニザン(註:トッド氏の祖父でフランスの著名な小説家・哲学者)の作品(『アデン・アラビア』)に、「僕は20歳だった。それが人の一生で、一番美しい年齢だなどと、誰にも言わせまい」という有名な一節があります。現代では、それが20歳ではなく、65歳になったということでしょうか。
そうです。例えば、私は行きすぎた自由貿易主義を批判してきましたが、自由貿易は、労働経験に乏しい若年層の労働市場への参入を妨げ、また彼らの賃金レベルに下方圧力をかけます。要するに先進国では、若者の活躍する場が減ります。
ところが、消費者の立場にある高齢者層は、自由貿易の恩恵をこうむることができます。経済活動から若年層をはじき出さないことが、少子高齢化問題を深刻化させない決め手です。したがって、人口が高齢化する局面では、一時的な保護主義を採用すべき、というのが私の考えです。
人口の少子高齢化は先進国共通の問題とはいえ、人口が減少しはじめた日本の状況は、かなり厳しいといえます。さらに日本には、他の先進国には見られない特殊な事情があります。