状況は一変、経産省寄りのムードに

だが、幹事長に就任した甘利氏が岸田内閣の人事に大きな影響力を持ったとされムードが一変する。甘利氏は経産大臣のほか、経済財政政策担当相などを務め、経産省と非常に近い関係にあるとみられてきた。案の定、筆頭首相秘書官には経産省次官を務めた嶋田氏が就任。今井氏も内閣官房参与に復活した。

しかも、総裁選で「(単年度の歳出を歳入範囲に抑える)プライマリー・バランスの棚上げ」などを掲げ、財政再建よりも積極財政を重視する姿勢を明確にしていた高市氏が、党の政調会長に就任。経産省の政策に通じる未来投資などに積極的に財政支出していく方向に舵が切られつつあった。そんなタイミングで矢野氏の寄稿が出てきたわけだ。

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「分配」から「分配も成長も」「まずは成長」へ

矢野氏の「バラマキ批判」は一定の成果を挙げている。「積極財政で、本当に国家財政は破綻するのか?」といった議論がかまびすしいほどに行われるようになったのが一点。そして、もう一つが、岸田氏が総裁選の際に掲げていた政策の微妙な修正を行うきっかけになったことだ。総裁選では「アベノミクスの成長の成果が十分に分配されてこなかった」として「分配」政策を前に出した。「選挙で勝てる顔」を求めていた自民党党員にとって、野党の主張の柱である分配重視を訴える総裁ならば選挙に勝てるとみられた。

ところが、実際に総選挙となれば、都市部の無党派層などを取り込まねばならない。現役世代は成長への期待度が高いから、分配優先では票にならない。選挙が近づくにつれ、「分配も成長も」「まずは成長」と発言トーンが変わってきた。財務省からすれば、バラマキ一辺倒の政策を修正させるだけでも成果だっただろう。もちろん、そのあたりの政策が本格的に具体化してくるのは総選挙後。自民党の議席獲得数などによっても政策は大きく変わってくるだろう。