300億年で1秒も狂わない光格子時計が次の日本人ノーベル賞最有力

「過去」だけではない。実は、島津製作所では、同社と関係のある少なくとも2人の研究者がノーベル賞の有力候補に挙げられている。

ひとりは物理学賞の有力候補、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授だ。

香取氏は2001(平成13)年に光格子時計を考案した。光格子時計とはレーザーで作った光格子と呼ばれる容器に、光を吸収する原子を1つずつ入れてその原子の振動を測定する手法の超高精度の時計である。この光格子時計の発明によって、「300億年で1秒も狂わない」時計が作れるという。光格子時計では、重力によって異なる時間の進み方が測れる。

香取秀俊教授などが開発した2台の可搬型光格子時計(令和2年4月発表「18桁精度の可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功」プレスリリースより)

香取氏の開発チームでは、2020(令和2)年4月には小型の光格子時計を東京スカイツリーに運び、地上450mの展望台と地上で時間の進み方の違いを計測することに成功している。島津製作所は東京大学とともにチームに加わり、計測のカギとなるレーザー光の制御システム構築を担当している。光格子時計は将来的には、火山の噴火や地震の予知などにも応用が可能とされる画期的なものだ。

写真=iStock.com/Phattana
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「第5のがん治療法」がん細胞だけを死滅させる光免疫法

例年、ノーベル賞シーズンには受賞の最有力のひとりに挙げられている島津製作所と縁のある人物がもうひとりいる。医学生理学賞候補の米国国立がん研究所・小林久隆医師である。

小林氏はがんの光免疫療法という治療法を開発した。これは、がん細胞にだけ結合する抗体薬を患者に投与し、そこに特殊なレーザー光を当てると化学変化を起こし、がん細胞だけを死滅させる治療法だ。

抗がん剤に比べて副作用も少ないと言われ、現在、全国の高度医療を手掛ける病院で、一部のがんでの治験が進められている。数年以内にはがんの7割以上でカバーできる治療法を目指すという。

鵜飼秀徳『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)

島津製作所は同社の近赤外線カメラシステムや液体クロマトグラフ質量分析計を使って、化学反応や治療効果を確認する手法の開発などで支援をしている。

光免疫療法は抗がん剤、手術、放射線治療、がん免疫薬に続いて、「第5のがん治療法」として期待されている。2018(平成30)年に医学生理学賞を受賞した京都大学特別教授の本庶佑氏の受賞理由は、「第4のがん治療法」としての、がん免疫薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)の開発につながったことであった。

なお、その本庶氏は2003(平成15)年から島津製作所が若手育成のためなどに設立した島津科学技術振興財団の評議員をつとめている。

小林氏の受賞も、さほど遠い将来ではないかもしれない。

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