商談会の出展の目的はバイヤーの見極め

続いて、梨の海外輸出で地域活性化を成し遂げたJA常総ひかり(下妻市)の取り組みをご紹介します。

JA常総ひかりでは、JETRO茨城事務所が開設される以前から、独自の輸出戦略に取り組んでいました。しかしその場限りの商談ばかりで、なかなか継続的な輸出にはつながらなかったそうです。

前述の通り、私は県内各地の関係団体を訪問しましたが、JAグループの中では、間違いなくJA常総ひかりが最も真剣に輸出を考えていました。「輸出によって梨のブランド化を図り、この地域を変えたい」というJA常総ひかりのみなさんの熱い気持ちに、私もすっかり彼らのファンになり、JA常総ひかりとJETRO茨城との二人三脚で、2014年から新たな輸出プロジェクトが始まりました。

どの国が輸出可能性が高そうか、検討に検討を重ね、まずはマレーシアで開催される食品輸出商談会に出展することにしました。私も一緒にマレーシアに渡航し、マレーシア企業のバイヤーとの商談に同席させていただきました。この時の目的も、日本にどのバイヤーを招待するかを見極めることです。マレーシア滞在中には数多くのバイヤーとの商談が行われ、その中で最も確実性が高そうなマレーシア企業の社長さんに、「飛行機代などの諸経費はJETROが負担するので、茨城県に招待したい」と提案し、快諾をいただきました。

写真=iStock.com/Elenathewise
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輸出によるブランディング効果は絶大

翌年、約束通り、ご来日いただき、それを機にJA常総ひかりにとって初めての本格輸出が始まることになりました。JA常総ひかりが主導したこの戦略の素晴らしい点は、あくまで長期的な関係構築を目指している点です。

バイヤーが儲かっていなければ、次の発注は期待できません。そのため、安売りはしないまでも、地元農家のみならずバイヤー側も徹底的に支援します。具体的な例を挙げると、現地での販売プロモーションを応援するために、生産地の市長が現地スーパーで店頭に立ってプロモーション活動を実施していたのが印象的でした。

それ以降、同じような手法でタイやベトナムからもバイヤーが来日し、梨の産地を実際に見てもらうことで順調に販路を広げています。

2018年には、JA常総ひかりの梨の輸出量は年間150トンにも達しています。下妻市全体の梨の生産量(2018年)が2680トンであることを考えると、全体の6%弱が輸出にあてられていることになります。1割にも満たないので少ないと感じるかもしれませんが、重要なのは量だけではありません。輸出によるブランディング効果は絶大です。

例えば、NHKなどの全国放送で「茨城県下妻市の梨が、東南アジア市場で現地の方々からとても甘いと大変好評で、わずか3日間で完売しました」とのニュースが報道されたことがあります。すると日本全国から「海外で大人気となった下妻産の梨を食べてみたい」との問い合わせが多数寄せられ、販売量が大きく増えました。

それまでの販売先は関東エリアに限られていましたが、それをきっかけに北海道などの遠方からも宅配依頼が来るようになりました。下妻市内の直売所も、首都圏からの買い物客で行列ができるほどの盛況を博しました。

プラスになったのは販売量だけではありません。前々から、茨城県産の農産品は他県産品と比べると全般的にブランド力が弱く、価格の低さに悩まされてきました。しかし、一度メディアに取り上げられたことにより、下妻市の梨を他県産よりも高い価格で流通させることができるようになりました。東京の大田市場でも、下妻市の梨には前年度と比べて約2割も高い値がつけられるようになりました。ブランド価値が市場関係者に認められたという何よりの証拠だといえるでしょう。