首相が指示してもPCR検査数は増えなかった

話を戻そう。新型コロナ対策では、初めからエビデンスの収集に後ろ向きだった。当時の安倍晋三首相がPCR検査の拡大を指示しても一向に検査数が増えなかった。「厚労省はどうなっているんだ、首相の会議での発言を無視するとは」と、別の省の幹部は驚愕していた。

検査件数が増えなかったのは検査で感染源を特定する「積極的疫学調査」を保健所や地域の衛生研究所が独占していたためだ。保健所の機能がパンパンになると、行政検査を民間に拡大することはせず、今度は「PCR検査は当てにならない」という論理が横行した。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、繰り返しメディアで厚労省の「医系技官」たちの抵抗が検査数が増えない背景にある、と指摘してきた。保健所長は医系技官が座るポストで、その「保健所利権」である疫学調査の保健所独占を守ろうとしている、というのだ。

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無策のまま、「第5波」の感染爆発を許した

新型コロナが従来のウイルスと違うのは、多くの感染者が無症状の段階からウイルス感染を広げていることだ。そうなると、感染が本当にどれぐらい広がっているかを知るには検査を徹底的にやるしかない。多くの先進国では検査を徹底的にやっていたのに対し、日本だけが極端に少なかった。

2021年のはじめの段階で、人口比で世界138位。2月17日の衆議院予算委員会で田村大臣は「PCR検査数が少ないのは感染者数が少ないから。感染者数で比べれば、欧米と日本では同じ(検査の)比率になっている」と述べていた。だが、その発想では無症状の感染者を含めた全体像を把握することは難しい。対策の大前提となる感染状況のデータ収集を放棄しているに等しいのだ。結局、「無策」のまま8月の「第5波」の感染爆発を許すことになった。