3Dプリンタで研修手法を刷新

国立科学博物館には、動物の体の構成が一目でわかる骨格標本がある。森さんが最初に3Dプリントでレプリカを作ったのは、クロツチクジラだった。

写真提供=路上博物館
フォトグラメトリーの様子

その頃、まだ関連する論文もなかった新種で、仲の良い研究者がよく似たツチクジラと比較する論文を書いていた。その研究に役立つかもと、森さんから提案したのだ。

「クジラって頭の骨だけでもすごく大きいんですよ。でも、人間ってある程度大きい物を同時に見比べることができないんですよね。それで、フォトグラメトリで取り込んだデータの縮尺を小さくして、3Dプリンタで小さくして出したら見やすいかなと思ったんです」

写真提供=路上博物館
標本の3Dモデル

森さんの手によって、それまでは実物を巻き尺で測ったり、写真で見比べるしかなかった巨大なクジラの頭の骨が、ほぼそのままの形で手のひらサイズになった。しかも、クロツチクジラとツチクジラの違い比較をするのに十分な精度があった。昔ながらの研究手法がテクノロジーの力で一気に刷新された瞬間だった。

写真提供=路上博物館
3Dプリンタが動く様子

「居酒屋博物館」で気づいたこと

国立科学博物館の非常勤職員になって2年目、研究活動の一環として新しい活動を始めた。

「居酒屋博物館」だ。

ある日、ポケットにツチクジラの骨格レプリカを忍ばせて、ひとり居酒屋に向かった。そこで同じくひとりで飲んでいる会社員風、同世代の男性に「どうも! お兄さんなにやってるんですか?」と話しかけた。その男性からひと通り話を聞くと、「で、お兄さんは?」と聞き返された。そこで骨格レプリカを取り出して、「実は……」と語り始める。

骨格レプリカを動かしたり、相手に渡して間近に見てもらったりしながらツチクジラの説明をすると、大いに盛り上がった。