2014年1月、大阪を代表する歓楽街、北新地に2店舗目となる「森乃お菓子」をオープン。ここでは、岡町の本店にはないおこしやかりんとうも用意した。下町の岡町と北新地ではギャップがあるように感じるが、話を聞いてみれば、森さんらしい選択だった。

「もともと都心部に店を出したかったのは、会社勤めしていた時、私自身が仕事帰りにおはぎを買ってたから。自分へのご褒美だったり、手土産として気軽に買える場所にしたかったんです。私が小さい頃、父親が買って帰ってくるお土産にワクワクした思い出があって。そのワクワクが、私のお菓子やったらいいなっていうのもありました。実際、仕事帰りにすっと寄りやすいところなんで、お客さんにはすごく喜んでもらってます」

北新地のお店は、会社帰りの時間に合わせて16時30分オープン。こちらもすぐに、毎日完売するような人気店になった。

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森さんが大切にするもの

それから6年が経ち、現在。2店舗を営む経営者になり、スタッフも20人まで増えて、子どもも生まれた。2010年の開店当初とは異なる質の忙しさに追われるようになったが、森さんの「おいしいおはぎをつくって、お客さんに届けたい」という想いは揺るがず、スタッフと一緒におはぎを握る。

店の前に立つ森さん(撮影=川内イオ)

「自分が食べておいしい、嬉しい、って思うものこそ、お客さんも『また食べたい』っていう味になると思うんです。うちはあんこを3種類炊き分けていたり、見えないところでいろいろこだわっているんですけど、現場にいれば、ちょっともち柔らかいんちゃうとか、あんこ柔らかいでとか、なにかブレがあった時にすぐに気づけるじゃないですか。スタッフとみんなで楽しくつくっていると自分も元気もらうし、ぜんぜん苦ではないかな」

森さんにとって「自分が食べておいしい」は絶対的な基準で、だからむやみに新作を出さないし、変わり種のおはぎもつくらない。

季節の変わり目などに店頭に並ぶ新作は、森さんが何度も試行錯誤して「むっちゃおいしい!」と感動したものだけ。例えば、夏に登場する「焼きとうもろこしもち」は、その厳しい審査をくぐり抜けてきたものだ。

話題作りには興味がない

最初はもち米をあんこで包む形で、外側のあんこにとうもろこしを混ぜた。でも、「なんぼやってもおいしくならへんわ」と数年間、眠ったままだった。

ところがある日、あんこをもち米で包む形に変えて、もち米にとうもろこしを混ぜてみようと閃き、試してみたら「あれ、めっちゃおいしいんですけど!」。

さらに遊び心を加えて、夏祭りのように醤油を塗って軽く焼いてみたら、びっくり仰天の味に。これをお店で売り始めると、とうもろこし? と半信半疑でひとつ買った人のなかには、次に来た時に「衝撃やったで!」と10個買って帰った人もいたという。

今では、お客さんから「トウモロコシ、そろそろ出る?」と尋ねられるような人気商品になった。

近年、華やかな見栄えだったり、珍しい素材を使った「創作おはぎ」を売りにするお店も増えているが、森さんは話題づくりに興味はない。

「おはぎってもち米との相性が大事なおやつやし、しみじみおいしいって思えるものを出すっていうのは、譲れないところで。いくら見た目がかわいくても、もう一回食べたいって思ってもらわないと、ずっと続けていけないし。使う素材にしても、こだわりすぎると価格も上がっちゃう。私にとって、おはぎは家庭のおやつで、やたら値段が高いっていうのは違うなっていうのがあって。東京の人には安すぎるって言われることもあるけど、高くなりすぎないところでベストのおいしさを出すことを大切にしたいんです」