アミロイドでアルツハイマー病を診断できるのか

アミロイドがアルツハイマー病の主たる原因だと叫ばれるようになって、アミロイドの脳への蓄積の程度をみることができる画像装置が開発された。PET(ペット)という装置である。身体各部にがんがないかをみつける全身PETを行う人間ドックがあるが、これは同じPETを用いて脳のアミロイド沈着をみられるようにした「アミロイドPET」である。

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アミロイドが多くたまっている人(アミロイド陽性者)は、脳内が赤く染まって映り、赤く染まらない陰性者と区別できる。特別な検査装置なので、まだ国内で備えている病院や研究所は少ない。

当初は、このアミロイドPETが陽性ならアルツハイマー病だと診断できると考えられていた。ところが、実際に臨床場面で用いてみると、ほとんど認知機能の低下がない高齢者でも赤く染まる人が何人も出てきた。これは、近い将来アルツハイマー病になる予測を表すのではないかとも考えられたが、その後数年しても認知症にならない人も少なくなかった。

「アミロイド原因説」はもう古い

2015年に世界の研究結果をまとめた論文で、その謎がわかった。アルツハイマー病の人は、40~90歳までほとんどの人がアミロイド陽性であった一方で、約1900人の正常な人を調べると、年齢が上がるにしたがって陽性になる人の率が上昇していた。90歳では、アルツハイマー病の人も健常な人も、陽性率にはわずかしか差がなかった。

つまり、認知機能が正常な人でも年齢を重ねればアミロイドが脳にたまるということがわかったのだ。さらには、認知症になる人では、発症する20~30年前の正常な年代(40~50歳)からアミロイドがたまり始めることも明らかになった。

アミロイドPETでの認知症診断は参考程度にすぎなくなり、同時に「アミロイドが認知症の主な原因」という考え方も修正を余儀なくされた。2015年ころの国際学会ではすでに研究者らのアミロイド熱は急速に冷めつつあり、「アミロイドは原因のごく一部だ。本当の原因はわからないが、加齢(歳をとること)が要因なのは間違いない」という言い方になっていた。