一方、事業支出6870億円(同4.1%減)のうち受信料の徴収にかかわる営業経費(受信契約及び受信料の収納)は710億円(同6.9%減)もかかっている。
コロナ禍の影響で、収入・支出とも前年度より減少したものの、収支の全体構図は毎年ほぼ同じ。受信料徴収の経費が、受信料収入の1割を超えるといういびつな状態がずっと続いている。
したがって、「コストを抑えて、受信料の支払率を高める」ことが課題になるが、実際には永遠のテーマとなっており、なかなか改善できないのが実情だ。
「昨日の敵は今日の友」か
そこで登場したのが、今回の「宛名なし郵便」。
NHKが受信料の未契約世帯に送る費用を概算してみると、1通当たり907万件×284円=25億7588万円になる。
営業経費の総額に比べれば4%にも満たないが、受信料を支払ってもらうまでに1回の送付では済みそうにないので、総額は数倍になると見込まれる。
ただ、仮に未契約世帯がすべて支払世帯に変われば、単純計算で2300億円超の増収となるため、決して高額な出費とは言えなさそうだ。
一方、日本郵便にしてみれば、新サービスの郵便費用がそっくりそのまま入るのだから、「NHK特需」はおいしい話に違いない。
新サービスが軌道に乗れば、日本郵便とNHKはウィンウィンの関係になるだろう。
日本郵政グループとNHKの間では、かんぽ生命保険の不正販売問題の報道をめぐってトップレベルで遺恨が残りそうなバトルが繰り広げられたが、営業レベルではどうやら「昨日の敵は今日の友」ということのようだ。
郵便局現場は「NHKの手先」とみなされることを懸念
だが、両者の思惑通りにいくとは限らない。
個別訪問による営業活動でもなかなか受信契約や支払いに結びつかないのに、受取人の書かれていない「ポスティングもどき」の郵便物を受け取って、すんなりと受信契約に応じる未納者がどれほどいるだろうか。
受信料に対する抵抗感は根強く、受信契約を結ばない理由も「支払うカネがない」から「受信料制度に異議」まで多種多様で、たとえ受信契約をしても支払いを拒む人も少なくない。
さらに、新サービスに対する疑義も聞こえてくる。
日本郵便は、信書便法に基づいて、通信の秘密が定められている信書の配達をほぼ独占しているが、住所しか書かれていない郵便物も信書としてOKとなればポスティングと変わらず、投げ込みチラシまで信書になりかねない。住所と宛名が一致している信書を確実に届けることが郵便の信頼の源泉になってきただけに、「違和感」を感じる向きは少なくなく、郵便サービスそのものが根底から揺さぶられそうだ。
さらに、郵便局の現場では、かんぽ不正販売問題で肩身が狭い思いをしているところに、今度は受信料徴収のお先棒を担ぐことにつながる新サービスが導入されて「NHKの手先」とみなされる懸念が高まっているという。
このため、知恵を絞ったはずの新サービスも、取らぬタヌキの皮算用になりかねない。