総務相が手放しで喜んだサービス試行

武田総務相はすぐさま、「NHKと日本郵便双方にとってプラスの効果をもたらすことを期待したい」と、手放しで喜んだ。

武田良太氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC BY 4.0/Wikimedia Commons

これを受けて、NHKの前田晃伸会長は6月3日の記者会見で「利用したい」と明言。

「費用対効果を検証して、訪問によらない営業活動の一部にあてたい」「今までのように、ものすごい数の文書を(受信契約のない世帯に)限りなく配る方式から、精度が高いものにしたい」と、コスト削減への期待感を示した。

もっとも、いきなり受信料の請求書を送りつけるのではなく、NHKが提供しているサービスの案内から始め、次いで受信契約の方法を説明し、その後に受信契約につなげられるよう、数段構えで臨むという。

NHKの受信料徴収のために編み出されたサービス

利用地域について、前田会長は、以下のように語っている。

① 支払率の低い都市部からスタートし、徐々に広げていく
② 支払率の非常に高い地域(秋田県や新潟県など)は、利用する必然性がない
③ 極端に支払率が低い沖縄県は、(戦後米国施政下にあったという)歴史的経緯があるため、導入は急がない

これらから類推すると、NHK広報が示した「一部地域」とは支払率の低い東京などの大都市圏を指しているとみられる。

一方、日本郵便が発表するやいなや、間髪を入れずに武田総務相が歓迎のコメントをし、前田会長が利用の方向性を打ち出したところをみれば、事前に入念な打ち合わせがあったことがよくわかる。

つまり、「特別あて所配達郵便」の実態は、NHKの受信料徴収のために設けられたサービスであることは、言わずもがななのである。

受信料徴収のコストは収入の1割以上

税金でも広告収入でもない受信料は、「公共放送」を標榜ひょうぼうするNHKの生命線だ。

このため、NHKは、受信料の徴収に多額の費用と労力を注入し、受信料負担の公平性を確保する観点から受信料の支払率の向上を「NHKの責務」と位置づけてきた。

受信料の現状を見てみよう。

年間の受信料は「地上放送+衛星契約(口座・クレジット払い)」のケースで、月額2170円×12カ月=2万6040円。

2020年度決算では、事業収入7121億円(前年度比3.6%減)のうち受信料収入は6895億円(同3.1%減)と、96.8%を占める。つまり、収入の大半が法的に収入を担保された受信料なのである。

ところが、受信契約対象世帯4610万件のうち支払世帯は3703万件にとどまり、支払率は80.3%(同1.5ポイント減)。逆にいえば、2割に当たる907万件が未納ということになる。