誰もが「自分らしく」生きられる世界を作る方法

もちろん「リアル」な世界でも、すずや級友たちは、田舎の高校の狭い世界のなかで意中の相手の関心を得ようと悩み、奮闘する。

それが多くの場合、失恋という結果に終わるとしても、50億人のなかで評判を獲得しなければならない仮想空間の「ゲーム」よりずっと攻略可能性が高いだろう。

評判がベキ分布する以上、リアルな人生が生きづらいとしても、仮想空間で「もうひとりの自分」になって「新しい人生」を始めることはさらに困難になる。

youtuberが注目されるのは典型的なサバイバルバイアスで、成功した少数の者(ロングテール)しか見ていないからだ。その背後には、ほとんど再生されない動画をアップしている数えきれないほどの「無名のひとびと」がいる。

ゲームデザインの世界では、「競争」ではなく「協働」によって、ゲーマーたちが力を合わせて目的(よりより世界をつくる、など)を達成するものが試みられているようだ。

それを拡張して、「壊れた現実世界をゲームのようにつくり変えよう」という主張もある(ジェイン・マクゴニガル『幸せな未来は「ゲーム」が創る』早川書房)。いずれも興味深い試みだと思うが、現在に至るまでこうした実験が大きな成功を収めているようには思えない。

スーパースター(ロングテールの端)に惹きつけられ、それを目指そうとするのは「ヒトの本性」なので、容易に変えることはできないのだろう。

だとしたら、どうすればいいのか。映画を観ながら思ったのは、一人ひとりの〈U〉があったらどうなるだろうということだ。

『竜とそばかすの姫』で、アバターのベルが竜に出会って物語が展開するのは、それがすずのための仮想空間だからだ。

同様に、すべてのユーザーに、それぞれが主人公となって活躍する物語が用意されていたとしたら、評判格差を気にせず、誰もが「ありのままの自分」でヒーロー/ヒロインになれるだろう。

テクノロジーの指数関数的な進歩を考えれば、いずれクラウド上に80億の仮想空間がつくられてもおかしくはない。

そのときこそ、ひとびとは「もうひとつの現実」で新しい人生を始め、ありのままの姿で「自分らしく」生きられる「自分だけの世界」を創造するようになるのではないだろうか。

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