「アップルI」は自分のために作ったパソコンだった
こうした実態とユーザー・イノベーション研究者がこれまで行ってきたフィールドワークの結果をつきあわせてみると新しいイノベーション・パラダイムが浮かび上がってきた。それはイノベーションの父であるシュンペーターが提示した枠組みとは全く違った局面を描くものだ。論文ではこの新パラダイムも提示した。
新パラダイムでは製品イノベーション過程を3つの段階に分ける。第一段階では消費者が自分自身のために製品創造や改良を行う。例えば世界最初の食洗機は 1886年、ジョセフィン・コクラーニェがユーザーとして自分が直面する問題を解決するために作った。家政婦が陶磁器を手洗いするとき欠けてしまうことがしばしばあったためだ。
今回の調査結果が示唆するように、消費者イノベーションは本人にとってだけ価値がある場合がほとんどだ。しかし、そうした製品の中には他の消費者の興味をひくものもある。そんな製品を他の消費者が消費者イノベーターに頼んで自分用に作ってもらったり、消費者本人が複製して使うようになる。それがイノベーション過程の第2段階だ。
スティーブ・ジョブズによると、アップルコンピュータの最初のパーソナル・コンピュータであるアップルIはパートナーのスティーブ・ウォズニアックが自分用に作ったものだったという。出来上がったパソコンの魅力を見抜いたジョブズはコンピュータマニアのサークルで売り込み1台500ドル、50台の注文を取ることに成功する。
そこで手ごたえを感じたジョブズは本格的に事業展開するため株式会社を設立する。ちなみに最初のアップルIは手作りだった。こうした状況は私たちの枠組みで言えば第2段階から第3段階への移行期にあたる。