同社はリコール前にも、「我々としてはこの病状の原因は、当社製品によるものではないと感じている」との立場を示していた。現在100名以上の飼い主たちが法律事務所とコンタクトを取っており、同社は集団訴訟のリスクを抱えている。

ドナー不足の危機 犬からの輸血に頼る

感染により、多くの猫が輸血を必要としている。しかし、輸血ニーズの急激な高まりを前に、ドナーとなる猫とのマッチングが追いついていない状況だ。そこで獣医たちは、急場凌ぎとして犬の血液の輸血に踏み切った。英インディペンデント紙は「毒入りキャットフードの危機 輸血需要急増で獣医らは犬の血液を使用」と題し、緊急的に犬の血液が猫用に用いられていると報じた。猫用の大規模な血液バンクはイギリスに存在せず、今回のように輸血の需要が急増する局面では、他の供給源に頼らざるを得ない。

とはいえ、これはあくまでその場凌ぎに過ぎない。犬の血液を猫に使う場合は24時間ごとに再度の輸血が必要となるため、あくまで猫のドナーが見つかるまでの時間稼ぎという位置付けだ。また、猫愛護団体のトップはインディペンデント紙の取材に対し、犬からの輸血には一定のリスクが存在するが、その点が十分に認知されていないと警鐘を鳴らしている。

高額治療費に、飼い主は苦渋の決断も

飼い主たちは愛猫を救おうと必死だが、あまりに高額な医療費を前に厳しい判断を迫られている。英デイリー・メール紙によると、イギリスの20代と30代の夫婦は3月下旬、ペットの猫の「オレオ」の体調がすぐれないことに気づいた。

オレオは問題のペットフードのうち1種を食べており、猫汎血球減少症と診断されることになる。輸血が必要とされていたがイギリス国内に在庫はなく、ポルトガルから取り寄せるのに1万ポンド(約150万円)を要すると獣医に告げられた。二人は熟考の末、オレオを永い眠りに就かせることを選んだ。

また、これとは別に、ある20代の夫婦も辛い選択をしている。飼っていた猫に2回の輸血を施したが、病状に改善はみられなかった。もし治療を続けたとしても、必ずしも快方へ向かう保証はない。万一の備えにと加入していたペット保険の補償枠も使い果たし、夫婦は愛猫を安楽死させる決断をした。

辛うじて命を取り留めた例もある。中東部イースト・ヨークシャーに住む40代の夫婦は、愛猫の「パンサー」と「チーター」を連れて獣医のもとへ駆け込み、輸血と血液検査などを受けさせた。チーターは逝去したものの、輸血によってパンサーは快復したという。

この問題を調査している王立獣医科大学の発表によると、リコールの実施以降、症例の報告数は減少傾向にあるという。突然の悲劇的な別れを生んだ一連の騒動は、ゆっくりと収束に向かっている。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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