西が初めての客に必ず行う心遣い

初めてのお客さまに対して、料理人がやることは全力で料理を作ること、全力でもてなすこと。自分の持っている技術を全部出し切ることです。そして、緊張をほぐしてあげる。たとえば、初めての方と馴染みの方がカウンター席で隣り合わせになったとします。馴染みの方に注文されていた料理を出すとき、私は必ずひと声かけます。初めての方に聞こえるように、こう言うのです。

「この間、お見えになったばかりですから、今日はコースのなかの料理ではなく、違うものにしました」

撮影=牧田健太郎

誰だって、隣の人が違う料理を食べているのを見たら平静な気分ではいられません。初めてだったらなおさらです。ですから、私はお馴染みさんに声をかけているようで、実は初めての方に事情を説明しているわけです。

「この料理は特別なものではありませんよ」と。

常連でも初めての客でも、お客さまを差別してはいけません。サービス業の基本です。

いつだったか、カウンターでタコちりを出したことがありました。真ダコの皮をいて、身をそいで、紙のように薄く切る。それをさっと鍋の湯にくぐらせて、ポン酢で食べます。

それを見ていて、どうしても、食べたそうにしている方には、タコちりのタコをみぞれ和えにして出すこともあります。同じタコちりではなく、タコの薄い身をきゅうりと大根おろしでさっと和える。それなら、どちらのお客さまも満足されるのではないでしょうか。

「もう一度、来てもらう店になることだけ」

料理屋の修業に入ると、店の主人や先輩がいろいろ教えてくれるのですが、なかには教えてくれないこともあります。

礼儀や言葉遣い、店の掃除、調理器具の使い方、そして料理の仕方は主人や先輩から仕込まれます。

けれども、お客さまとの接し方、器の選び方、盛りつけなどは手取り足取り教えてもらうものではありません。店の経営だってそうです。主人なり先輩なりがやっているのを横から見て習い覚え、あとは自分で勉強していく。独立してから役に立つのは修業していた時に気をつけて見ていたかどうかなんです。

私は経営を学校で学んだわけではありません。でも、小僧をしていた時から約束を守ること、背伸びをしないことが大事だと教わりました。そして、お客さまを大切にすること。私の経営とはもう一度、来てもらう店になることだけです。

撮影=牧田健太郎

家庭料理のおかずのきれいな盛り付け方

私は日々、献立を決めたら、盛りつける器がすぐ頭に浮かびます。逆にきれいな器を見つけたら、これにはこんな料理を作って盛ってみたいと考えてしまいます。

一般に、和食の盛りつけは、「山高帽」に盛るのが習いとされています。山高帽とは真ん中を高くして盛ることで、料理が皿の上にペタンとしないようにする。それが基本です。