効果があるからこそ怖い「過信」のリスク

「でも単純な作業であれば、カフェインをとれば良いってことよね?」と思われた方がいるかもしれません。でも、この研究を行ったミシガン州立大学心理学部のキンバリー・フェン准教授によれば、その考えこそが危ないのだそうです。

「カフェインは、眠気を減らして気分を改善させてくれます。しかし睡眠不足が解消されたように感じても、より複雑な仕事のパフォーマンスは低下してしまうのです。これが、睡眠不足が非常に危険である理由の1つです」

先ほどお伝えしたように、カフェインは脳が自分の働きすぎを監視するシステムを狂わせます。眠気がおさまり、自覚的には、通常と比べて変わらぬ仕事ができるように感じさせてくれます。でも、もしかすると脳のパフォーマンスが思った以上に落ちていて、自分では「単純作業」と思っているような内容でさえミスを犯しやすくなっているのに、気が付けなくなっているかもしれないのです。長距離バスの運転手や、緊急手術を担当する医師などの職業の人がこのような状況にあったら、命に関わる事故の原因にもなりかねません。

また最近の研究では、別の問題も見えてきています。従来、睡眠は「脳の休息」という意味しかないと思われていましたが、もっとさまざまな役目を持っていることが分かってきました。例えば、脳の神経細胞に蓄積したゴミを掃除したり、複雑になりすぎてしまった神経細胞のネットワークを刈り込んで、より効率よく活動ができるようにしたりすることです。睡眠は単なる休息ではなく、よりよく活動ができるよう脳をメンテナンスする役割があることが分かってきたのです。それゆえ、睡眠不足をカフェインで紛らわせることは、1~2日なら良いかもしれませんが、それが長く続くと悪い影響がより強く出てきてしまうかもしれません。

複雑な作業なら取りあえず寝るのが正解

この研究結果を踏まえて冒頭の問いに答えるとすれば、次のような内容になります。

「もし、ごく単純な作業をするのであれば、カフェインをとって眠気をさまして終わらせてしまうという選択肢もあるかもしれません。ただミスが許されないような複雑な作業であれば、取りあえず寝て、明日の朝からすることをオススメします。なお単純な作業だとしても、数日にわたって睡眠不足が続くようだと、カフェインの助けを借りても十分にできなくなるかもしれません」

睡眠不足とカフェインの関係について、見えてきた新しい知見。良かったら日々の生活に、生かしてみてくださいね。

1)睡眠不足の際に、コーヒーなどカフェインを含むものをとると、眠気は減り、単純な作業であれば効率が上がる。
2)一方で、頭を使うような複雑な作業の効率は下がり、ミスが多くなる。
3)睡眠不足の状態が続くと、その影響は蓄積し、脳のパフォーマンスは下がり続ける。

参考資料
Caffeine selectively mitigates cognitive deficits caused by sleep deprivation
Michelle E Stepan et al. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2021 May 20
Study: Don’t count on caffeine to fight sleep deprivation
MSU TODAY May 26, 2021

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