経験は“荷物”になる

現在スタッフの募集は、知人やSNSなどを通して行う。「生き方に刺激を受けた」という女性や中高年男性などからの応募が相次ぐ。だが、首をかしげるような応募も少なくない。

「昔外資系の広報をやっていたから広報ができる」というものの、SNSを使ったことがない主婦。「土日は無理、8月は1カ月間休みたい」と訴えるパート勤めの女性。早期退職した男性は、ホテルで使用する基本ソフトも英語もできず、学ぶ気もないが「管理監督をやりたい」。「再スタートしたい」と連絡してきた50代男性は、必要な経験がないのに「給料が安い」と不満を口にする。本人の希望で週2回勤務と決めたのに、研修後、身体がついていかないと2日で辞めた人もいた。

「とにかく甘い。ステップアップしたい割には覚悟がない。自分の市場価値が全く分かっていない」。薄井さんは苦言を呈する。

まずは原点に戻れるかどうか。ゼロからスタートし、学ぶ姿勢があるのかどうか。多くの人が「経験」という荷物を抱え過ぎていると思う。

「再就職というのはある意味“旅”です。バッグパックに自分のものを全部入れて動こうとするからつぶれる。余計なプライドは捨て、荷物をいったん空っぽにして、新しい旅を始める覚悟が必要です」

「チーム訳アリ人材」

そんな薄井さんが採用したのは、パートに就いていた元専業主婦やシングルマザー、英語はできるものの日本語に不自由しているハーフの女性たち。

金銭的な問題から大学に行けず、お弁当工場で働いていた21歳の女性はITに強い。「毎日新しいことを学べるのが面白い。チェックインでお客さんと顔を合わせるのが楽しい」と笑顔を見せる。元専業主婦歴約10年の40代女性は、フロントのオペレーションや人事、労務を受け持つ管理職。「チャレンジだと受け止めています。管理職は初めてなので、こなすことがまずは目標」と冷静だ。

「チーム訳アリ人材」と命名したスタッフのほとんどは、観光業未経験者。教育が必要だが、かえって新しいことに挑戦できるとみている。ホテルでは多様性とサスティナビリティーに力を入れ、東京タワーが見える最上階のラウンジには、人が集まり、自由に意見交換できる場も作っていく。インターン制度なども使いながら、本気で頑張りたい人々を今後も積極的に採用していく計画だ。

写真=薄井シンシアさん提供
LOF HOTEL Shimbashiで働くスタッフ