家に帰ったら真っ先に歯を磨く
このジレンマを解消する魔法の杖はないが、ヒントをいくつか紹介しておこう。もっとも簡単ですぐに実行可能なのは、「家に帰ったら真っ先に歯を磨く」だ。
ダイエットに失敗するのは、無意識が発する「空腹」の警告を制御できないからだ。だがスピリチュアルは、高い知能をもっているものの、ときに単純なトリックに引っかかる。
子どもの頃から寝る前に歯を磨く習慣がついていると、「夜、歯磨きをしたら、それ以降はなにも食べない」というルールが内面化されている。
それでも空腹を感じるかもしれないが、「ここで食べたらまた歯磨きをしなくてはならない」という面倒くささが、夜食を避けることを手助けする。これが「習慣の力」だ(※1)。
もうひとつは、体重の変化をこまめに監視することだ。これはレコーディングダイエットとして知られているが、いちいち体重をノートに書きつけるよりも簡単な方法がある。
それはベルトのあるズボンやウエストのぴったりしたスカートをはくことだ。これだとお腹が苦しくなるから、そのサインに気づいて食べるのをやめることができる。一方、ベルトのいらないスウェットなどを着ていると腹まわりの変化に気づかず、体重が増えやすい。
ダイエットに必死なひとは、「ぜったいに食べない」となんども誓う。だが研究によると、こうした自分との約束はほとんど効果がない。
食べることを拒絶すればするほど食べ物にとらわれていく
映画を上映する部屋にチョコレートの入った皿を置き、ある被験者には1粒も食べないよう指示し、別の被験者には、「映画を観ているときは食べてはいけないが、終わったら食べられる」と告げ、残りの被験者には好きなだけ食べてもらった(※2)。
映画が終わったあとに、チョコレートを食べるのを横目で見ていた2つのグループを呼んでアンケートに答えてもらう。
そこにはチョコレートのボウルが置いてあり、研究者は思い出したように、「これで実験は終わりです。今日はみんな帰ってしまったので、余った分は好きなだけ食べていってください」と告げる。
これは、「映画が終わったらチョコレートを食べていい」といわれていたひとにとっては、延期していた楽しみを実行する絶好の機会だ。だが彼らが食べた量は、「1粒たりともチョコレートを食べてはいけない」と命じられていたグループよりはるかに少なかった。
ダイエットが困難な理由は、食べることを拒絶すればするほど食べ物にとらわれていくことだ。これは無意識の作用なので、意識で抑えつけようとしてもいずれ意志力が枯渇してしまう。
だがこの実験は、食べることを拒絶するのではなく、「楽しみはあとにとっておこう」と考えた方が、食べる量を減らせることを示している。「いつかは食べられる」と考えることで、スピリチュアルに対し、「食べないと死んでしまう」というアラートを鳴らす必要がないと伝えることができるのだ。
※1 チャールズ・デュヒッグ『習慣の力』ハヤカワ文庫NF
※2 バウマイスター、ティアニー『WILLPOWER 意志力の科学』インターシフト