自尊感情と成長欲求が満たされることが大事

望ましいキャリアを形成していくうえでは、まずは職業人として、あるいは組織人として、十分な実力をつけることが不可欠です。実力をつける前に転職を繰り返してしまうような場合は、当然ながらキャリアを崩していく方向となりやすいのです。実力をつけるうえでは、理不尽なことが多くある新入社員や若手社員の時代に、忍耐強く仕事をし続けるため、モチベーションを維持する必要があります。

そうした観点からすると、やりがいというのは、一定の実力がつき、自分の裁量で仕事をして初めて感じることができるものであり、若手社員の時に、上司や先輩から言われた通りに業務をこなしている段階では感じづらいものです。

また、給料や福利厚生などの金銭的インセンティブは、その特徴として、短期的な効果しかないということが知られています。長くは持続しないのです。そもそも、若手社員の頃には給料も高くはないはずです。

相原孝夫『職場の「感情」論』(日本経済新聞出版)

新入社員や若手社員であっても、享受することができ、長期的に持続するモチベーション装置となるものはなにかと言えば、自尊感情や、人間関係や成長に関わる欲求が満たされることです。自分の存在が周囲から尊重されているという思いや、良い風土の中で、人間関係に恵まれた状態で仕事ができることや、成長できる環境があるという点は、誰もが持っている根源的欲求に根差した点であり、モチベーションを維持するうえでカギとなる要素です。

このような理由から、新卒で会社選びをする場合、仕事のやりがいとか、給料や福利厚生などの処遇面を重視して会社選びをすることはリスクが高いと言わざるを得ません。

それよりは、企業ブランドが高いなど、自尊感情を維持しやすい組織に所属することや、人間関係や成長に関わる重要な欲求が満たされるような組織風土の中で働く方が賢明な選択と言えるのです。多少のことがあってもモチベーションを失わず、忍耐強く実力をつけていくことができ、充実した職業人生を送っていくうえで現実性の高い選択となるのです。

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