黒人からみた南北戦争の「遺産」

ただ、抑圧された側にとっては、とんでもない遺産でしかない。

黒人から見れば、南軍の旗もリー将軍像も白人側の人権無視の抑圧の記憶であるのはいうまでもない。それが上述の将軍像の撤去につながる。人種問題に対して社会が成熟した結果、撤去は必然とみているはずである。

この撤去が行われたのが、バージニア州のシャーロッツビル市だったのも大きい。というのも同市はリー将軍の銅像撤去をめぐるいわくつきの場所だからだ。2017年8月、リー将軍像の撤去計画に反対する名目で全米から白人至上主義団体が結集。これに抗議するグループと衝突し、1人が死亡、数十人がケガをするという大惨事があった。

この事件についてのトランプ前大統領の発言が揺れたことでも物議を醸した。トランプ前大統領は事件直後の記者会見で「人種差別は悪だ」としたうえで、白人至上主義者などを初めて名指しで非難したが、その言葉を撤回し、「白人至上主義者らと反対派の双方に非がある」と蒸し返した。

いずれにしろ、撤去が決まり、市は像を歴史施設などに移す手続きを進めている。

政治化する歴史が分断を生む

ここで疑問がわくかもしれない。「なぜ今なのか」という疑問だ。既に150年以上前に終わっている奴隷制度がなぜまだ問題となっているのか。奴隷廃止後も南部では投票の際などに差別があり、法的にそれが解消されるのは、公民権運動を経た50年ほど前であり、アメリカの人種問題は根が深い。そして、昨年のブラック・ライブス・マター運動が明らかにしたように、法的ではなく、心の問題こそ、人種問題の根幹にある。

写真=iStock.com/Delpixart
※写真はイメージです

ただ、それにしても遅すぎる。なぜもっと前に撤去ができなかったのだろうか。

その疑問に対する回答は、政治・社会における政治的分極化(両極化)が、近年極まっていることに尽きる。政治的分極化とは、国民世論が保守とリベラルという2つのイデオロギーで大きく分かれていく現象を意味する。保守層とリベラル層の立ち位置が離れていくだけでなく、それぞれの層内での結束(イデオロギー的な凝集性)が次第に強くなっているのもこの現象の特徴でもある。