ワクチン接種後進国ニッポンは景気回復が遅れ、景気失速の恐れ
ここまで、コロナ禍での日米欧中経済の状況を見てきましたが、日本だけが回復が出遅れているのがわかります。大きな要因はワクチン接種の開始が他国より遅れたことです。早めにワクチンを調達できなかった政権の責任は大きいと言わざるをえません。
図表3を見ると、かなり心配なことがあります。
回復が遅れる日本経済ですが、原油価格の高止まりなど、主要国の需要回復で輸入物価はこのところ大幅上昇を続けています。5月は前年比で25%も上昇しています。それにつられるように、企業間の取引の物価を表す企業物価も上昇を続けており、5月では5%近くまで上昇しています。
一方、消費者物価もプラスには転じていますが、それでもわずか0.1%の上昇です。吉野家は牛肉の多くを米国から輸入していますが、輸入牛肉の値段は大きく上がっているのに、景気が回復しないこともあり、最終価格への転嫁は難しい、という記事が新聞に出ていました。まさに、そういう状況が多くの産業で起こっているのです。
命綱のアメリカ経済のピークアウトで、日本経済は2周遅れも
他にも懸念することがいくつかあります。先ほど、米国の経済が比較的好調という話をしましたが、そろそろピークアウトしたのではないかという話が出てきています。
普通、景気が回復する局面では、長期金利が上昇します。一時、1.7%台にまで上昇していた米長期金利(10年国債利回り)ですが、このところは1.3%台にまで落ちています。経済の先行きに対する懸念があるのです。
米国で心配しないといけないことは「スタグフレーション」です。1970年代後半のカーター政権時に起こったことですが、景気が停滞するのにインフレが収まらない状況です。
日本は、ここまで何度も見てきたように、米欧中の景気回復に乗り遅れています。周回遅れです。諸外国の景気がピークアウトしてからでは、とくに米中経済への依存度の高い日本経済の回復速度にも影響が出ることが懸念されます。
そして、そういった状況でも、輸入物価、企業物価、ひいては消費者物価も上がり、日本もスタグフレーションの懸念もあります。
先にも述べたように、日本では4~6月の成長率はほぼゼロという見方が多く、7~9月以降の回復に期待したいところですが、いずれにしてもワクチン接種が進むことが景気回復の大前提です。
デルタ株などの変異株の蔓延も心配です。ワクチン接種を進め、早く景気を回復させないと、周回遅れのままで変異株が蔓延したり、世界経済がピークアウトしたりするなど、日本の景気回復が大きく抑え込まれる可能性もあることに注意が必要です。周回遅れに次ぐ周回遅れで、「置いてけぼり国」に転落してしまうおそれがあるのです。