マスクを清潔に保つのにも一苦労

「基本、朝起きてから寝るまで、食事や顔洗うとき以外はずっと着けておくように指示されていました。着けずにしゃべっているのを担当に見つかり、注意されている人はたくさんいましたよ」

「調査」や「懲罰」という名称のペナルティーが科せられ、場合によっては、雑居から独房へ移されるとのこと。でもって、独房では、1週間も2週間も朝から晩まで段ボール切りなどの無意味としか思えないような作業をさせられ続けるようなこともあったそうだ。

なるほど、飛沫対策は、それなりに徹底されていると考えていいのかもしれない。

「ただ、私の場合、マスクを着けておかなければいけないことよりも、洗うことのほうがストレスでした。2枚をフル回転で使い倒してますから、できる限り清潔に保つためにも、洗うときはせっけんを使いたいじゃないですか? でも、せっけんも買うのにもお金がかかるでしょ?」

一応、刑務官に申し出ればせっけんも付与された。が、与えられる分量は多くなく、また頻繁にもらうことはできないため、それで毎日のマスク洗いをまかなうことは難しい。

「仕方ないから、雑居の中に置かれている共用のせっけん……本来は流しを洗ったりするのに使うモノを用いていましたが、これが衛生的にけっこうしんどかったんですよね」

マスクは口に当てるだけに、気持ちはわかる。なお、この問題については、田中さんは刑務所内の「意見箱」を用いて陳情を行ったらしいが、改善は見られたかったという。

筆者撮影
2020年6月、「東京アラート解除」の文字が。

そんな状況に耐えがたくなり、田中さんは作業報奨金をはたいて売店で使い捨てマスクを買ったそうだ。その頃にはマスク不足も解消していたのだろう。

「面倒だったのが、1枚1枚に自分の“番号”を書かされたこと。刑務所内ではトラブル防止のために、持ち物全てに“番号”を書く決まりになっているんですよ」

筆者撮影
売店で購入した使い捨てマスク。
筆者撮影
トラブル防止のため、マスク1枚1枚にさえ番号を書かされる。

雑居での食事はコロナ前から間隔を空けて座っていた

では、もう一つの飛沫対策、食事中のおしゃべりのほうはどうか?

「福島刑務支所は、以前は雑居での食事中の会話を許していたんですけど、感染対策の一環でダメになりました。なもんでコロナ禍以降雑居での食事は、部屋に6人いたら6人がそれぞれ間隔を空けて座り、黙々と食べるというスタイルです」

おしゃべり禁止だけでなく、間隔も空けるようになったわけか。

そう相づちを打ったところ、否定の言葉が飛んできた。

「いや、間隔を空けて座るについては、コロナ前からのルールなんですよ。ご飯のとき、受刑者同士が近づいちゃうと、食べ物をあげたりもらったりが起こって、人間関係で貸し借りが生まれる。だからバラバラに座らなくちゃいけないという決まりです」

2019年の大みそかに出された「おせち弁当」。

人間関係のトラブル回避策が、飛沫対策にも活用されたようだ。

が、食事に関する話はまだ続きがあった。