集団生活の刑務所内では、コロナ禍でどんな感染対策がとられているのか。編集者の仙頭正教さんが、コロナ禍を福島刑務支所で過ごした田中容子さん(50歳・仮名)に取材した――。
田中さんは刑務所内で日記やスケッチをつけていた。「お金もらっても入れない場所に入ってるから、潜入取材だと思って記録しました!」(田中さん)
筆者撮影
田中さんは刑務所内で日記やスケッチをつけていた。「お金もらっても入れない場所に入ってるから、潜入取材だと思って記録しました!」(田中さん)

塀の中で未曽有の事態に突入

刑務所は感染リスクの高まる「3密」になりやすい環境だ。法務省は「矯正施設における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を公表しているが、具体的に刑務所の現場ではどうなっているのか。今回、一人の女性に話を聞くことができた。

田中容子さん(仮名)、50歳。生活苦からの万引癖により、過去に4度刑務所生活を経験している元累犯者で、その最後の懲役のタイミングがコロナ禍にかぶっている。時期は2018年5月から2021年3月。つまり彼女は、塀の中で未曽有の事態に突入したということになる。

幸い彼女が収監されていた福島県内の女子刑務所「福島刑務支所」(収容人数:約500人)で感染騒ぎは起こらなかったそうだ。そこではどんな対策がとられていたのだろう。

まずは田中さんから、福島刑務支所に関する基本的な情報から聞かせてもらった。

●寝起きする部屋は、「雑居」と呼ばれる場所(6人部屋)。
●朝8時から夕方5時までは、自分の配属先の職場である「工場」で、ミシン作業などを行う。途中、短時間の休憩があり、日によっては運動場に出られることもある。
●「工場」には、それぞれ「担当」と呼ばれる監督役の刑務官がいる。
●食事は、朝夕は「雑居」で、昼は「工場」の中の食堂でとる。
●マスクやせっけんといった日用品は、売店で購入可能。

塀の中の生活がおおまかにつかめたところで、いざ本題へ。「感染対策はどうでしたか?」と切り出すと、田中さんからまず返ってきたのはこんな言葉だった。

「もちろん、中でも感染対策は行われてましたよ。マスクを着けて飛沫対策をしてください、手洗いをしてくださいってな具合に。けど、良い意味でも悪い意味でも、刑務所は閉ざされた場所です。だからか、感染に対して、中の人間はそこまでピリピリしてませんでしたね」

好奇心旺盛な田中さんは、読みたい本や雑誌、見たいテレビ番組などを日記にみっしりと書き込んでいた。下に青字で『PRESIDENT』の文字も。
筆者撮影
好奇心旺盛な田中さんは、読みたい本や雑誌、見たいテレビ番組などを日記にみっしりと書き込んでいた。下に青字で『PRESIDENT』の文字も。