SNSを重視せざるを得なかった事情も……

そもそも韓国ではパフォーマンスを披露する音楽番組は数多くあるものの、地上波でアイドルのパーソナルを知ることができるバラエティ番組は多くない。ましてやアイドルの冠番組というものはほぼない。

そうした中で、芸能事務所はアイドルのパーソナルな魅力を伝えていくツールとしてSNSやYouTube、V LIVEといったプラットフォームを利用した。オリジナルコンテンツを数多く制作することで、音楽面と本人達の魅力を伝えてきた。

YouTubeを意識した動画コンテンツ作りからK-POP独自の動画プラットフォーム、短尺縦型のTikTokへ。検索エンジンのブログや掲示板機能からDaum Cafe、Weverse、Lysnといった事務所ごとのオウンドコミュニティ、そして各SNSへなど、現在ではさまざまなデジタル配信プラットフォーム上でコンテンツが同時発信され、媒体間を縦横無尽に行き来している。

その結果、韓国国内でいま注目されるのはオールドメディアを抑え込むほどの大きな力を持った新たなプラットフォームの存在である。

元々K-POPにおいては「ファンカフェ」と呼ばれる国内ファンに向けたクローズドなファンクラブが一般的であった。しかしファンのグローバル化とともにファンコミュニティや動画配信を目的とした全世界向けのプラットフォームが作られ、Weverse、Lysn、UNIVERSEといったサービスが生まれている。

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ファン同士の掲示板のようなコミュニケーションスペースや、そこでアイドルが発信する文章や写真を楽しめるだけではなく、そのプラットフォーム上でライブを配信するケースも出てきた。

年末に起こった地殻変動

2020年末に公営放送MBCで放送された「2020歌謡大祭典」では、ニューメディアの影響力の大きさを示す象徴的な出来事が起こった。

年末の歌謡祭といえば、その年に活躍したアイドルが一堂に会する韓国最高峰の歌謡祭祭だ。しかしその年はHYBEレーベル所属のアーティストが出演しなかった。

BTS、SEVENTEEN、NU'ESTといったグループは、同日開かれたHYBEレーベルの合同コンサート「2021YEAR'S EVE LIVE」に出演した。そのパフォーマンスは自社オウンドプラットフォーム「Weverse」で配信されたのだった。

コロナの影響でオンラインライブが余儀なくされた2020年において、アイドルファンはYouTubeやV LIVE、そしてWeverseのようなプラットフォームでコンサートを視聴する機会が増えた。その結果、芸能事務所は、テレビ局を介さず制作から放送まで全ての権利を所有できるオウンドプラットフォームを重視するようになった。

音楽番組に出演することが認知度を高める唯一の方法であった時代から、SNSをはじめオウンドメディアのみで直接的にグローバルファンにアクセスすることができるようになった現状への移り変わりを示しているようだ。