お金をかけずに楽しめる動画コンテンツ

では、具体的にK-POPはどんなふうにコンテンツのバリアフリー化が行われてきたのかを見てみよう。まずは「お金」だ。K-POPといっても韓国、海外のコンテンツだ。普通、有料の動画配信サービスや海外チャンネルも取り扱う有料放送を契約しない限り、触れる機会はあまりないだろう。

しかしK-POPの場合は、無料でアーティストの動画や番組をネット上で見ることができる。主要な音楽番組のどれもが放送後に出演映像をアーティストごとに切り出して、当日か翌日には公式にアップロードしてくれる。韓国のテレビが簡単に見られない海外のファンでも、好きなK-POPアイドルが出演した音楽番組をオンタイムで網羅できる。

さらにパフォーマンス全体の映像だけではなく、各メンバーだけに一曲フォーカスした「チッケム」と呼ばれる推しカメラも同時に公開される。そもそも韓国は音楽番組の数自体が多いこともあって、そのことだけで既に一つの楽曲に対して、ミュージックビデオ(MV)の他にパフォーマンスが見られる映像が複数あることになる。

公式YouTubeチャンネルでは、MVがフル尺で公開されているのは当然のこと、「ダンスプラクティス」映像やリアルバラエティといったオリジナルコンテンツが配信されている。

韓国では「他事務所の先輩の楽曲」でもフル尺でカバーする

他にも、制作会社のチャンネルではメンバー全員が縦一列に並び先頭のメンバーがキリの良いところまで何小節か踊り、後ろにはけていくのを繰り返し、1曲のダンスをリレー形式で繋いでいく「リレーダンス」や、照明だけのシンプルな空間でのアイドルのダンスにフォーカスした映像をYouTubeで配信している「STUDIO CHOOM」(CHOOM=韓国語でダンスを意味する)など、そのグループに関する派生コンテンツがYouTubeだけでも幅広く用意されている。

さらに、日本では他事務所の歌手がフル尺でカバーすることは考えにくいが、韓国の場合は新人歌手が自身の実力を見せる目的で先輩歌手のカバーをしていることがよくある。もちろんカバーダンスは一般の人たちの間でも楽しまれ、YouTubeで「cover dance」と検索すれば、その結果の多くがK-POPのカバーダンスで埋まるほどだ。

権利の保護を最優先に厳しくブロックするよりも、「フリーミアム」の考え方で、あえて楽曲やMVそれ自体をプロモーション素材とみなすことで広く解禁し、後々の二次展開で利益を結果的に回収するという経営判断である。その結果、YouTube上だけでも多くの派生コンテンツを楽しむことができ、さらにファンがそれを自由にシェアできる。

他にもInstagramやTwitter、TikTokといったSNSでも毎日写真やメッセージがアクティブに更新されている為、お金を払わずしてそのグループのコンテンツを山ほど視聴できる環境が整っているのだ。