なぜ、箸先を汚していいのは長くても3cmまでなのか

一つだけ残した作法。それは箸先を汚さないことだったという。

「私どもでは『箸先五分、長くて一寸』と申しますが、要するに、箸先を汚していいのは長くても3cmまで、という意味です。先代はスタッフの皆さまに不快な思いをさせないためにこの作法だけは守ったのですね。そして同時に、日本で最も和食を一緒に食べたくないであろう人物だからこその、周囲の方々を緊張させないための配慮だったともいえましょう」

つまり礼法とは、この場面では絶対にこうしなければならないというものではないのだ。TPOに合わせて臨機応変に取捨選択し、組み合わせていけばいいものであり、その判断を瞬時に行うためには、作法の引き出しをたくさん持っておくと同時に、常に頭と心を働かせ続ける必要がある。

写真提供=光英VERITAS中学校・高等学校

たくさん学ぶ、そこから必要なものを選んでつなげる。それはまさに学校での学びに通じると、授業でも伝えているそうだ。

写真提供=光英VERITAS中学校・高等学校

しかも取捨選択の判断は、「いま・ここ」に対してだけ行われるわけではないと敬承斎さんは言う。

「日本人はよく『遠慮』という言葉を使いますが、これはただ単に自分がやりたいことを我慢するという意味ではなく、本来は、遠くをおもんぱかるという意味なのです。距離として時間として、いまここにある世界だけではなく、遠い世界や遠い未来にまで思いを馳せて相手を思いやることで、いまするべき行動を見極める。それが遠慮の本質です」

ますますグローバル化と多様性が進む社会で活躍するこれからの子供たちにこそ、礼法を身につける必要性があるようだ。

中学校での礼法の学び
中学1年
●礼法とは何か
●洋室での基本動作(姿勢、お辞儀、歩き方、椅子の座り方)
●和食の作法(箸の持ち方、嫌い箸など)
●折形と水引
中学2年
●和室での基本動作(姿勢、お辞儀、方向転換、襖ふすまの開け閉め)
●訪問ともてなし(玄関の上がり方、部屋に通されたときの座布団の心得)
●手紙の心得
●折形と水引
中学3年
●抹茶の作法
●煎茶の作法
●テーブルマナー(修学旅行にて)
●折形と水引
(光英VERITAS中学校・高等学校のカリキュラムより)