「プレミアム」を再解釈すべき時代になった

1990年代に入り、「ちょっと贅沢なビール」を掲げたエビスビールは、テレビCMや飲食店でのキャンペーンなどを行うことで販売出荷数を増やし、全盛を極めていった。

しかし、他社のビールメーカーも追随の姿勢を緩めない。

2000年代には新ジャンルや発泡酒など、低価格路線の商品が各社から発売された。加えて、2003年に現在も最大の好敵手である「ザ・プレミアム・モルツ」(サントリー)が発売されると、熾烈しれつなシェア争いは激しさを増した。

さらには、エビスビールよりも高価格なクラフトビールもここ数年で台頭するなど、確実にビールの多様化が進んでいる。

こうしたなか、「時代背景や消費者の価値観が変化する状況に対応し、エビスビールの価値を再定義する必要性が出てきた」と沖井さんは語る。

「長年、味にこだわった本物志向のプレミアムビールとして訴求してきたこともあり、消費者にはおいしさや高級感はだいぶ認知されていました。他方、エビスビールには『部長のビール』とお客様から言われることもあるくらい、良くも悪くもその立ち位置から脱却できずにいて、少しずつ時代との『ずれ』が生じてきているのではと思う節がありました。そこで改めてブランドを見直した際に、『プレミアム』のあり方を変えることが重要だと考えるようになったのです。それが、2021年にリブランディングを図ったきっかけになります」

「ステイタス」から「自分らしさ」へ

エビスビールは2021年1月から新コンセプト「Color Your Time! ビールの楽しさ、もっと多彩に。」を掲げている。

時代とのギャップを埋めるために、数年かけてエビスビールのリブランディング計画を進めてきたという沖井さんは、コンセプトを変えた背景についてこう話す。

「消費者が抱く『プレミアム』に対する価値観の変化に着目しました。かつては高級感や格式高さ、優越感に浸れるという『ステイタス志向』が強かった時代もありましたが、時代とともに周囲と比べて良いものを求めるよりも、自分らしく飲みたいと思う『パーソナル志向』が高まった。「自分らしく過ごしたい」というニーズが顕在化したなかで、エビスの豊かなおいしさが、お客様それぞれの「時間」を豊かに彩ることを価値として訴求しようと考えました」

画像提供=サッポロビール
エビスビールの新コンセプト「Color Your Time! ビールの楽しさ、もっと多彩に。」