われわれは2019年3月に保釈請求をしました。検察官は「未だに被告人の認否も不明である上、弁護人からの具体的な争点に関する主張も証拠意見も明らかにされていない状況である」「被告人が自己の刑責を免れるために、関係者等と口裏を合わせ、あるいは威迫するなどして罪証隠滅を図る恐れは極めて大きい」などと言って保釈に反対しました。裁判所もこの意見を入れて保釈を却下します。

この事件の公判前整理手続が終結したのは、最初の逮捕から1年2カ月経過した2020年1月下旬でした。その原因は、時期遅れの再逮捕と追起訴に加えて、やはり証拠開示の引き伸ばしでした。

起訴から半年経過しても証拠を開示しない検察

われわれは、警察が押収して鑑定に付したものはメイソンさんのものではないという主張をいち早く提出し、それにともなって、検察官が「押収品」だと主張している物件がどのように保管されていたのかを示す押収品保管簿などの資料を開示するように求めました。

また、繁華街である現場には必ず防犯カメラがあるはずですから、その動画データを提出するように求めました。ところが、起訴から半年以上すぎても検察官はわれわれの証拠開示請求に対する回答すらしませんでした。

検察官は「4月の異動期になり、引き継ぎに時間がかかっている」とか「科捜研に問い合わせ中である」などと弁解していました。6月になっても回答がありませんでした。

そこでわれわれは「勾留による拘禁が不当に長くなったとき」(刑事訴訟法91条)にあたるとして、勾留の取消請求をしました。しかし、東京地裁の裁判官は「本件はなお勾留を継続する理由及び必要があり、勾留による拘禁が不当に長くなったときにも当たらない」としてわれわれの請求を却下しました。

無罪になるも退去強制させられ妻と引き離される

この事件の公判は、被告人の身柄が拘束されたまま行われました。2020年3月に10回の公判期日が行われ、警察官や科捜研の技官ら12名の証人尋問が行われました。

高野隆『人質司法』(角川新書)

同月16日、公判裁判官は、本件の職務質問・所持品検査そして採尿手続には重大な違法があったとして、検察側の主張を支えるほとんどすべての証拠を却下する決定をしました。

そして、その2日後に無罪判決を言い渡します。メイソンさんは判決言い渡しの1時間後、東京地裁地下の仮監(東京拘置所の別室)から釈放されました。逮捕から474日ぶりのことでした。

検察官の控訴はなく、無罪判決は確定しました。しかし、彼はもはや大学に通うこともできなくなっていました。特別在留許可を受ける可能性もなくなりました。退去強制手続が執行され、彼は日本に奥さんを残したままアメリカに帰りました。

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