パーマーは最終日前半が終わった時点で2位のキャスパーに7打もの大差をつけていた。ところが全米オープンの最少スコア記録を作ろうとして無理なプレーを連発、遂にキャスパーに並ばれた。18ホールのプレーオフでも逆転を喫して破れ去ってしまうのである。パーマーは試合後に言った。「ちょっとした見栄がすべてを台無しにする」と。

「攻撃一辺倒ゴルフ」の盲点

果たして、こうしたドラマは全米女子オープンにも起きるのだろうか。

トンプソンは後半に入っても持ち前のパワーゴルフを実行する。3日目には封印していたドライバーを使って攻め続ける。多くの選手が難渋しているラフに入っても、自分のパワーを持ってすれば大丈夫という自信があったからに違いない。

確かに身長があればあるほどラフの草がヘッドネック近くのシャフトに引っかかることは少ない。「3日目は借りてきた他人のゴルフ。本来の私のゴルフはこれよ」とばかりにドライバーで攻め続け、たとえラフに入っても想定通りにグリーンをとらえることができた。

アーノルド・パーマーは帝王ニクラウスに「私は刻むことなど考えたことはない。もしそれを考えたらもっとたくさん勝っていただろう。しかしそれは私のゴルフではない」と言い放っている。トンプソンもパーマー同様のチャージゴルフが持ち味だ。それも超ダウンブローの低い球筋も同じ。これぞアメリカンゴルフなのだろう。

しかし、パーマーが言っているように、攻撃一辺倒のゴルフは時に勝利を逃す。攻撃が防御にならないときがある。それは己の力を過信したときだ。「自分のゴルフを全うする」は聞こえはいいが、自分勝手なエゴイズムに陥ることもある。そのときに勝利が逃げていくのだ。

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11番パー4の、予期せぬダブルボギー

11番パー4はパーをとるのも難しいホールだ。フェアウェイは狭いがドライバーで飛ばせばたとえラフに入ってもショートアイアンでグリーンを狙えるから心配ないと思っていたのかもしれない。

解説の岡本綾子は危険を察知していたようだったが、アナウンサーは「ギアをもう一段上げましたね」と肯定的だった。

果たしてトンプソンのドライバーショットはわずかに左に曲がりラフ。セカンドは7番アイアンでグリーンを狙うが、大きくショートした。クラブが振り抜けなかったのだ。それは午後になってラフが伸びて強くなり、午前のラフとは異なるものになったことでもある。

ラフはほんの数センチ伸びるだけでも打ちづらくなる。しかし、体勢を崩したものの、ボールはフェアウェイにある。奥のピンまでは50ヤードほど。3オンは確実、うまく行けばピンに寄せられるだろう。

ところがこのアプローチショットを打つまでに凄く時間がかかる。何度も素振りを繰り返すトンプソン。ナーバスになっているのがわかる。そして打ったショットはまさに「チャックリ」という音を発するダフリでグリーンにも届かない。

岡本綾子は「この人はアプローチに難がありますからね」と解説。第4打はパターを使って寄せに行くが、1m半の距離を残し、パットを押し出してダブルボギーを叩いてしまったのだ。